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前立腺がん

現在日本で行われている泌尿器科がん診療の半分くらいはこの疾患に関連したものです。
患者さんの数は極めて多く、前立腺がんは 2015 年に男性のがん罹患数第 1 位となりましたがその後ずっと罹患数トップとなっております(前立腺がんに大腸がん、胃がん、肺がんなどが続くランキングになっています)。

まずはその基礎知識について、私もかつて勤務していた国立がん研究センターが編集したウェブサイトを読むことをお薦めします。
腫瘍マーカーである PSA や、診断のために必須の前立腺生検、画像診断はもちろん、ステージやそれに応じた治療方針、手術や放射線治療の特徴などについても記載があります。
ただ、国立の施設が記載した内容ですのでエビデンスレベルは高いものの、内容が中立的です。
これは非常によいことである一方、診断・検査・治療・治療後合併症などすべての項目が「同じように」記載されておりますので、「患者さんが本当に知りたい情報に会えないことがある」と感じることがあります。

院長は勤務医時代の多くをがん専門病院で過ごしました。
その間に全身麻酔下に行った手術で最も多かったのが前立腺全摘(312 例)です。
その経験をもとに、セカンドオピニオン外来でしばしば聞かれる内容については順次公式 YouTube チャンネルで説明してまいります。

このページではこれまでに患者さんからよく聞かれた質問とその回答についてまとめてみました。

PSA がいくつになると前立腺がんを心配するべきでしょうか?

一般的にドックでは PSA 4 以上で要精査となるように設定されています。
しかしながら PSA 値は年齢によって正常値が異なり、一般的に加齢に伴い正常値も少しずつ上っていきます。
もちろん個々のケースで異なるのですが、あえて年代別の PSA カットオフ値を定めなさい、と言われたら院長は下記のように回答します。

  MRI を検討する PSA 値
~50 歳 2.5 以上
51~64 歳 3.0 以上
65~69 歳 3.5 以上
70 歳以上 4.0 以上

もちろん、この値を超えたらすぐに前立腺がんである、ということではありません。
ただ、例えば 2023 年現在院長は 46 歳ですが、自分の PSA 値が 2.8 だったら次回 1 年以内に PSA を再検します。
そのうえで PSA が上昇傾向を示したら MRI 検査を受けるでしょう。
上記に示した値は「前立腺がんを心配する」のに目安となる値であることを繰り返し記載しておきます。

PSA が高いと言われた場合、その後診断が確定するまでのプロセスを教えて下さい。

下記を御覧ください。前立腺がんの診断前に重要な検査が MRI、前立腺がんの診断がついたあとは CT や骨シンチグラフィーと呼ばれる、前立腺がんが他の臓器に広がっていないか(転移がないか)調べる検査が大切です。

手術治療と放射線治療のどちらがよいでしょうか?

これこそ院長が勤務医時代に前立腺がんに関するセカンドオピニオン外来で最も多く聞かれた質問です。
詳細については今後少しずつ本稿の記述を書き足していったり公式 YouTube 動画で説明したりして参りますが、まずは概要を述べておきます。
これらの見解は、(このホームページすべてそうなのですが)これまでの研究報告や院長の診療経験に基づいています。

1. 手術に向いている患者さんとは

特に若い患者さん。

院長が考える「特に若い前立腺がん」は60 歳未満ですが、暦年齢(こよみねんれい)と実年齢は異なることもあるので、いわゆる「50 歳代くらいの体力があるひと」がこれにあてはまります。
ここで手術と年齢について一般的な見解を述べておきます。
手術年齢の上限を設定することは非常に難しいのですが、手術後の期待生存期間が 10 年以上見込めること、というのがよくいわれる必要条件です。
これは厚生労働省のウェブサイトをみると 75~80 歳の間、おそらく 76-77 歳以下の年齢の方になります。
前立腺がんで手術という選択肢を考える際の参考にしていただければと思います。

「悪性度が高い(グリソンスコアが 8~10)」+「前立腺被膜内に腫瘍がとどまっている」の 2 つがそろっている。

「悪性度の高い腫瘍を完全に除去する」ことが最も効率のよいがんに対する外科治療と考えられます。

なるべく早く治療を終えたい方。

2023 年現在放射線治療は本当に様々なバリエーションがあり、治療期間や照射方法も多岐にわたります。
そのため一概に言えないのですが、現在全国的にみて最も標準的な放射線治療は 28-35 回前後の照射を 6-7 週間かけて行う、というものです。
放射線は前立腺に「少しずつあて」ますので時間がかかりますが、術後管理期間を除けば手術はその当日だけで治療が終了します。
院長勤務医時代の手術患者さんで最短入院期間は 4 日(入院⇒翌日手術⇒ 2 日後カテーテルいれたまま退院)です。
入院の医療費が欧米にくらべてそれほど高額ではない日本では、この手術は通常 6-10 日前後の入院期間となりますが、ご本人の都合等でどうしても早期に職場復帰したいとか、家族の介護で治療期間をなるべく短くしたい等の希望がある場合は手術が望ましいと考えます。

手術を希望する患者さん。

院長が勤務医時代に行った手術の最高齢は 82 歳です。
週に 5 回以上テニスをしている方でした。
その方いわく、「自分はこれまで胃がんも腎がんも手術で治癒したので前立腺がんも是非手術したい」。
この患者さんは術後 5 年以上経過しておりますが、お元気です。
患者さんが強く希望する場合、体力的なことや合併症などを考慮してベネフィットがあると判断されれば、臨床医はなるべくそのニーズに応えるのがよいと考えています。

2. 手術と放射線―治療後の合併症について

手術と放射線で、まずは代表的な術後の合併症である尿失禁・性機能障害、ついで治療後数年経過してから起こる晩期合併症について比較してみましょう。
ここではその重症度について述べますので「手術<放射線」なら「手術より放射線のほうが重症」、「放射線<手術」なら「放射線より手術のほうが重症」ととらえてください。

それぞれの治療を大きく捉えた場合の合併症重症度

治療直後については「放射線<手術」ですが、放射線治療をうけた一部の症例で術後 3-5 年以上経過してから「手術<<放射線」となるケースがあります。

尿失禁

「放射線<<<手術」です。放射線治療で尿パッドやおむつが必要になった患者さんは記憶にありません。
手術をすると、腫瘍のステージや前立腺内の腫瘍部位によるので一概に言えませんが、院長の経験では、術後 1 ヶ月で「パッドやおむつが不要、または 1 枚念のためつけている」患者さんが 50%、術後 3 ヶ月では 75%、6 ヶ月で 90%、12-18 ヶ月で 95% 以上でした。特に術後 1-2 週間は 1 日にパッドやおむつが 5 枚以上必要になるようなケースもあり、患者さんは皆不安になりますが、ほとんどの方は大きく改善していきますのでまずは待ってみましょう。

性機能障害

「放射線<<手術」です。手術をすると、通常の射精はできなくなります(射精感があるけど何も出ない、といわれた経験はあります)し、勃起についても(勃起に関する神経を温存しても)弱くなりますので、これまでと同様の性生活を送るのはかなり難しいと考えて下さい。
一方、放射線治療については、手術よりも射精・勃起に関するダメージは少ないものの、併用することが多いホルモン療法(6 ヶ月または 24 ヶ月施行することが多い)の影響により、やはり射精も勃起も弱くなります。
特に 24 ヶ月ホルモン療法を行った患者さんですと、「放射線治療は性機能障害が少ないと聞いていたが、夜の生活がほとんどできなくなってしまいました」と言われることがしばしばありました。
ホルモン療法の影響は年齢やもともとの精力に大きく関連しますので、治療前に主治医の先生とよく相談することが必要です。

晩期合併症

「手術≦放射線」です。
放射線というのは非常によい治療ツールですが、その影響は後々まで残ります(広島や長崎の原爆後遺症が長期にわたってみられたことがそのことを間接的に示しています)。
そのため放射線治療後例えば 10 年以上経過してから突然血尿や血便など、前立腺周囲臓器(膀胱と直腸)から出血をきたすことがあります。
この出血は非常に制御するのが難しく、院長も勤務医時代に非常に悩まされる症例を多数経験しました。
こういった合併症が起こる頻度は非常に低いのですが、放射線治療を受ける際には頭の片隅で覚えておく必要があります。

また、放射線治療を受けたあと、やはり前立腺周囲臓器である膀胱や直腸のがんになった場合、放射線治療による「周囲組織の癒着」で非常に手術がやりづらくなることがあります。
院長は勤務医時代に前立腺への放射線治療後の膀胱がんに対して膀胱全摘を行った経験が 4 例ありますが、どのケースも非常に剥離操作(組織を正しい層ではがしていくこと)が難しかったことをよく覚えています。

ただ一方、手術を行った場合も手術操作が及んだ部位が癒着しますし、手術の晩期合併症として鼠径ヘルニア(いわゆる脱腸)が起こることがありますので、手術は長年にわたる合併症が皆無、というわけではありません。

(今後また内容を追記していく予定です)

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