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院長がかつて経験した「超緊急性が高い背部痛」の例

[2024.10.02]

昨日救急対応のワークショップを行いました。外来診療中に患者さんが倒れてしまうことを想定したシミュレーションでした。

しかし、"本当の救急" は文字通り「一刻を争い」ます。

かつて勤務していた総合病院の夜間体制は

内科疾患(呼吸器/循環器/消化器/神経/糖尿病代謝など)・・・内科当直がみる

外科疾患(一般外科/整形外科/耳鼻/皮膚/眼/泌尿器/など)・・・外科当直がみる

多発外傷など救急搬送でただちに生命に関わる症例・・・麻酔科当直がみる

という 3 名医師で対応しておりました。

まだ若手医師であった院長はいつも外科当直を担当しました。眼科や耳鼻科の救急が来ると緊張し、泌尿器科症例では(専門なので)比較的余裕を持って診る、という感じでした。もちろん当直が手に負えない症状などについては各科の当番に夜中でも電話して来てもらうルールになっていました。

そんなある夜、事務から「尿管結石疑いです」として救急対応した 60 代男性がいました。「つい 3 ヶ月前も結石で痛かった左側の背中が痛い」ということでした。尿管結石では尿検査で血尿(顕微鏡でしかみえないこともあります)がみられることが多く、その方にも血尿がみられました。

以上からまず左尿管結石を考えたのですが、問診・診察で「通常尿管結石で痛がる部分よりも少し頭側を痛がるな」という印象でした。少し肩甲骨のあたりにも違和感があると言います。念のため CT を撮影すると、明らかな大動脈解離(!)の所見でした。

血尿は尿路結石のせいではなく、その患者さんが内服していたいわゆる「血がサラサラ」の薬のせいで、背部痛の原因は大動脈解離であったことがわかりました(CT でどこにも尿路結石はみられなかった。3 ヶ月前の石は流れてしまったのでしょう)。

もう少し問診すると患者さんの職業は長距離トラックドライバーで、その日も 500 km 以上走り、しばらく睡眠不足が続いていたそうです。

幸いまだ血圧は維持されており、意識もしっかりしていて心タンポナーデ(心臓周囲に水分が貯留して心臓が十分に機能を維持できていない状態)などの危険な状態には至っていなかったのでただちに心臓血管外科の先生を呼び出し、麻酔科当直に声をかけ、コール後 10 分で到着した心臓外科の先生 2 名の手により夜中の 3:00 から手術室入室となったことを覚えています(そのあとに来た救急外来の患者さんを診なければいけないので院長は手術見学できませんでした)。

・・・尿管結石と思って CT 撮らずにそのまま鎮痛剤投与で帰宅でもさせていたらまさに致命的な結果になっていた可能性があります。

医療には常にこういった「薄氷を踏む症例」があり、いつも「いかにも重症」という感じで受診するわけではありません。歩いてきた患者さんが超高血糖(500 以上!)で待合室で倒れる、などということもあります。

Do the best, prepare for the worst(ベストを尽くせ、最悪に備えよ). この言葉を肝に銘じて日々慎重に外来診療を行うよう心がけたいと思います。

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