今年逝去された偉大な創薬科学者に合掌
今年は小林製薬の紅麹サプリによる Fanconi 症候群(腎機能低下をきたし、ときに慢性腎不全 ⇒ 死亡や生涯にわたる透析になりうる)が報道されました。そもそもこの「紅麹サプリ」のパッケージには "悪玉コレステロールを下げる" と大きく記載されておりました。これは「医者にかって処方された薬は飲みたくない!健康食品だったら飲んで続けても良いけど・・・」と考える層に非常にアピールする文言で、事実それなりに売れていたようです。現在若者の TV 離れは進んでいる印象がありますが、中高年世代はまだまだ TV を視聴している方が多く、小林製薬は TV CM の出稿最大手のうちの一社ですから、そういった層には小林製薬の商品は "刺さりやすい" のかもしれません。
しかしながら "悪玉コレステロールを下げる" というのは基本的には "治療" であり、(家族性高コレステロール血症などをのぞいて)まずは運動や食生活改善などの管理をし、それでもうまくいかなければ医師による処方薬を使用するのが常道です。生活習慣病管理に慣れた医師による処方をある程度(ときどき飲み忘れたりしても)キチンと受け入れて内服すれば、コレステロールは血糖値や血圧より目標値達成が比較的容易なことも多いです。もちろん小林製薬に今回の事件について責任があるのですが、われわれユーザーというか、世論も「処方薬は危険!」とか「飲まないほうがよい薬 10 選!」みたいな週刊誌的なメディアに踊らされることなく、われわれのようなかかりつけ医に聞くべきところは聞いていただければと思います。生活習慣病は患者さんを含めた家族や医療者などチーム全体で取り組むべき疾患ですので。
ちなみに悪玉コレステロールを下げる治療薬は "スタチン" と呼ばれ、日本人研究者である 遠藤 章 先生が発見しました。1973 年に青カビからスタチンを発見しており、奇しくも今回の紅麹事件もカビが関連しているようです(厚生労働省による工場査察が行われたようですが、その結果は公表されたのでしょうか?ネットでさがしましたがよくわかりませんでした)。一時期スタチンは「世界で最も服用されている薬」と言われたほど、広く使用され、現在でも多数の患者さんが内服しております。その 遠藤 章 先生が今年 6 月に亡くなられました。偉大な創薬科学者に合掌。