当たり前の表現・呼称をいまいちど見直すという動き
少し前から英語で症例報告をする際、"A 50-year-old breast cancer patient" という言い方はせず、"A-50 year lady with breast cancer" というような言い方が採用されるようになっています。前者は「50 歳の乳がん患者」、後者は「乳がんを(ひとつの属性として)もっている 50 歳女性」というニュアンスでしょうか。直訳するとあまり違いがわかりづらいかもしれませんが、"cancer patient" =がん患者 と言ってしまうとあまりに病気=がん がフィーチャーされてしまいその方の個性が置き去りにされるような印象が強くなってしまう感じがするのを避けよう、という動きです。
よく医療機関で「患者様」 vs 「患者さん」論争というものがありますが、当院では基本的にスタッフが「患者様」「◯◯様」と呼ぶことを原則として禁じています。この呼称に強い違和感があるからです。
しかし最近、「患者」という言葉自体が不適切とする風潮があります。受診した方を「患者」と呼んだ瞬間に「医師が上、患者が下」の上下関係が形成されてしまうという懸念から、ということです。これはなんとなく納得できます。
多様性を尊ぶべき現在、医療機関を受診したからと言ってすべて「患者」のカテゴリーに入れてしまうのは確かにある人間の集団を十把一絡げにしてしまうことのように思います。ただ、例えば臨床データをまとめるときに高血圧や尿路結石症のグループをどう呼ぶか。これまでは「高血圧の患者さんたち」でよかったのですが、「当院に高血圧の治療・管理で通院している 400 名の集団?グループ?」でしょうか。「患者」にかわる用語を作ってしまうとその言葉がまたひとりひとりの個性を埋没させてしまうことになりかねないというのがツライところです。
かように呼称というのは難しいものです。昨今 LGBTQ と関連して役所などの「性別」欄のフォーマットをどう書くか、などいくつか問題が挙がっております。名称はイメージと強くつながるので「誰からも文句のいえない呼称」というのは難しいのですが、特に今回の医学など、国際的なところとダイレクトにつながっている分野ではある程度他の国々と足並みを揃える必要があるかと思います。
・・・言うは易く実際に決めなければいけない立場の方々にはいろいろと厳しいハナシですが。特に今月から新しくなった院長の母校名、東京科学大学。だいぶいろいろな方から「ちょっと良くないねぇ」みたいなことを言われました。決定した大学上層部の気持ちも考えて院長はあまりこの新名称についてはディスりません。時間が経ってこの呼称が自然になる日を楽しみに待ちたいです。
Chat GPT に東京科学大学のイメージ図を描いてもらいました。いつかこんな感じでたくさんの日本人・外国人留学生の学び舎になってくれればと卒業生として期待しています!