脂質異常症の評価に役立つツールを紹介します
脂質異常症。耳慣れないと感じる方も多いと思います。一般的に「中性脂肪やコレステロールなどの脂質代謝に異常をきたした状態」をさします。かつては「高脂血症」と呼ばれていましたが、2007 年に「脂質異常症」に改められました。これはいわゆる「悪玉」コレステロールが高いだけでなく、「善玉」HDL コレステロールが低い場合もあることから「高」脂血症と呼ぶのは変だ、ということでこのネーミングとなりました。
ところで、日本人が健康診断を受けると「何も異常がなく、数値がすべて基準値範囲内」の割合はどのくらいいるでしょうか?
正解は 50% で、要するに 2 人に 1 人は「健康診断結果報告のときに医師になんかいわれる」ということです。これら「異常」を指摘されるひとの実に 1/3 に脂質異常症がみられるというデータがあるくらい、脂質異常症はありふれた病態です。
脂質異常症と一言でいっても下図のように診断名は多岐にわたります。
このなかで、比較的健康診断で異常の指摘が多く、治療されている患者さんも多い "高 LDL コレステロール血症" についてひとつ話題を提供します。
LDL は「悪玉」コレステロールと呼ばれ、本来は細胞内に取り込まれてホルモン産生・細胞膜形成などのわれわれの生命維持に重要な役割を担います。しかし一方で血中に過剰に存在すると血管壁に沈着・蓄積して血管壁の炎症を来します。炎症とは「組織の火事」みたいなもので、これにより血管内皮細胞が傷害され、心筋梗塞・脳梗塞など重大疾患の引き金になることがわかっています。
では、「LDL が高いですよ」と言われたらすぐに治療しなければならないのでしょうか。答えは否で、その値のみではなく、他にいくつかの要因をみて治療を開始するかどうかを決定します。その「いくつかの要因」が『動脈硬化疾患予防ガイドライン 2022』のなかに有名な "久山町研究" に基づく「動脈硬化性疾患発症予測モデル」でわかります(下図)。
これをみるとわかるように、性別(男性のほうがリスク高)・血圧(高いほうがリスク高)・糖代謝異常(あるほうがリスク高)・LDL(高いほうがリスク高)・HDL(いわゆる善玉で、低いほうがリスク高)・喫煙(すっているほうがリスク高)についてそれぞれポイントをつけて右のグラフをみてリスクの高低を判断します。
これだけ言われてもよくわからないと思うのですが、これらのことが直接的にわかるいいツールがあります。日本動脈硬化学会が公開している動脈硬化性疾患発症予測ツール「これりすくん」(https://www.j-athero.org/jp/general/ge_tool/)です。これは上記の計算モデルがアプリになっており、数値をいれていけば自分の心筋梗塞などの疾患予測(確率)とそのリスクがわかる、というものになっています。
こういったツールを使って院長や当院スタッフも患者さんごとにリスクを考えながら指導を行っております。とりあえずすぐにポイントを下げることができるのなんといっても喫煙。やめるだけで 2 ポイント下げられます。
たばこは勉強すればするほど百害あって一利なし。喫煙者の方は減煙から禁煙にむけて是非一緒に取り組んでまいりましょう!
明日は高尿酸血症についての最近の話題を紹介します。