院長の書評その 5:藤ノ木 優 先生『明日の名医-伊豆中周産期センター』ー 医師あるあるが随所に
著者の藤ノ木優先生は 2006 年に順天堂大学を卒業し、産婦人科を専攻された医師です。
とにかくこの作品中は「医師あるある」がちりばめられており、医療従事者が読むと面白さが倍増します。
いくつか例をあげると
・東京で最先端医療をやって(と言っても、実際は上の先生から指示されていることをやっているだけなのに)自分が偉くなったと勘違いしている若手医師が地方の病院に転勤して "本当の臨床" 現場での厳しさを思い知る
・東京の大きな病院にいるときは、「遠くから自分の施設をめがけてやってくるハイソな患者さん」の診療に関わることが多い → 病状や薬副作用の説明などが論理的に行うことができ、外来診療が比較的スムーズ。一方、地方の病院では「病院そばに住んでいる、様々な患者さん(本作品でいえば、漁師もいれば、居酒屋さんなど本当にいろいろなひとがいる)」に対する診療を行う → 「絶対に抗がん剤など死んでもやりたくない!」と頑として拒否するケースなど、患者さんの気持ちを十二分に考えないと診療方針が決まらないことが少なからずある(もちろん、どの患者さんに対しても、十分な説明をして納得したうえで診療方針を決めなければいけないのですが、あくまでも傾向として)
・本院ではなく分院の教授は少し「クセ」がある先生が多い。ただし(論文や研究はそこそこでも)臨床の能力はものすごい
・分院は規模が本院ほど大きくないので診療科の垣根をこえて医療従事者が仲良くなりやすい(東京の大学病院だと泌尿器科医だけで 20 人とか 30 人とかいるのでその中だけの付き合いになるが、地方病院だと泌尿器科医 3 名だけ、とかなので自然と他科の先生や看護師などと密な関係になる → このため、「研修医終わって最初に東京から離れた地方病院で結婚相手をみつける」という医師は多い(ちなみに院長はこのパターンで同じ病棟の看護師であった素敵な妻と結婚して今に至っています)
・・・などです。
『北上次郎オリジナル文庫大賞』を受賞した本作品、主人公の若手産婦人科医、北条 衛(ほうじょう まもる)が成長していくプロセスが非常にリアルに書かれていて面白いです。気になった方は是非手にとってみてください。
著者の藤ノ木優先生は順天堂大学出身で、順天堂大学は医学部附属静岡病院という施設を伊豆の国市に持っています。おそらくこの静岡病院での経験が本作品の土台になっているものと院長は勝手に想像しております。作品中に出てくる魚が美味しい居酒屋、「いおり」もきっとモデルのお店があるのでしょう。いつか近くに行ったら探してみたいです。