講演前に演者のモチベーションを下げかねない "スライドチェック"
院長はこれまでにだいぶたくさんの講演をする機会に恵まれました。自分の考えや手術手技を紹介する機会を頂けるというのは非常にありがたいことで、そういった依頼は基本的には嬉しいものです。
講演。本稿では「演者として主催者から謝礼をいただいてプレゼンを行う」ものとして定義します。・・・となると、謝礼を出す主催者が必ずいるわけです。
これまでに経験した講演で珍しい主催者としては 地域の高齢者グループ(シニアクラブ)・学校(中高生に向けてがんについての講演)・一般企業(社員にむけてがん検診推奨の講演)・患者会 などがありましたが、圧倒的に多いのが「薬品会社」です。
薬品会社が主催者ですと、ここ数年は必ず事前に「スライドチェック」があります。これは当日の 1-2 週間前に使用するスライドをはじめから終わりまで主催者会社の学術担当者が内容を確認する、というものです。これにより科学的に妥当とは言えない表現やスライドの誤謬(ごびゅう)をチェックしてくれるのは大変助かるのですが、嫌なこともありました。
それは、「主催者薬品会社の薬の宣伝スライドのような内容を含まないといけない」ところです。スライドチェック担当者の方々もわれわれの意を汲んである程度自由に喋らせてくれる会社と、かなりガチガチにスライドを指定してくる(すでにその企業が作成したスライドをその内容のまま喋らないといけない)会社とがあり、後者ですとせっかく時間をかけて用意したスライドを平気で黒く塗りつぶしてきたりします。
中には「若手医師向けにお願いします」と依頼されたので若い先生方が将来に希望を持てるような内容(がん診療は、近い将来ゲノムをはじめとする遺伝子情報に基づく診療が当たり前になるのでどんどんテーラーメイド的になっていく、という一般論を記載しただけなのに)に対しても(「現時点で認められていることのみ内容に含めてください」ということで) NG を出されたことがあったりと、「こっちは何時間もかけてスライドの準備をしているのに・・・」と文句を言いたくなるような指摘も何回かありました。
企業存在理由のひとつが「利潤の追求」である以上、会社の望むような内容の講演(端的に言えば薬の宣伝になるような)が好まれるのでしょうが、院長はなるべく自分の言いたいことを言いたいように言う、ことにある程度こだわっていたのでよく直前で黒塗りされることが多かった気がします。
開業して講演する機会がだいぶ減り、講演を聴く機会が増えました。最近はあまり企業側も宣伝宣伝、という感じではなくなっているような気もします(会社によるのでしょうが)。講演を聴講するわれわれは「論文や教科書にあらわれてこないお薬の◯◯な一面」のような、少し裏話的なことを演者に求めるものです。もちろん事実とあまりにも異なることはダメですが、講演演者にはある程度の裁量権を認めていただければもっと講演は面白くなるのではないかと愚考する今日この頃です。
写真は今年の 8 月に登壇する予定の講演です。下に [共催] と書いてあるのがわかると思います。富士フイルムメディカルさんはあまりうるさいことを言わずに昔から比較的自由に喋らせてくれるので大変ありがたい企業さんだと感じています。