日本最古の医学書『医心方』の訳本を読んでいます
2024 年 7 月 1 日のブログでも紹介したのですが、984 年に編纂された日本最古の医学書、『医心方』についてです。これは丹波康頼という朝廷で身分の高い貴族らを診ていた宮廷医によるもので、内容はほぼ選考する中国の書物からの引用です。しかし本場中国では散逸してしまった文献に関する情報が医心方には残っているなど、文化的には極めて価値が高いものです。
最近この本がすべて藤沢市の市民図書館に蔵書されていることを知り、早速足を運んで少しずつ読んでいます。『医心方』すべて読みたいのはやまやまですが、これは 30 巻にも及ぶ大著(槇 佐知子 先生という、古典医学研究家による労作です)で読破するのは容易ではありません。そこで院長の専門である「泌尿器科編」のみ現代にも通じる知識になりそうなところを拾い読みしております。
そのなかで夜尿症についての記載がありました。
病原論に云う。人眠睡して覚えず尿(いばり)の出づる者あり。是は其の質を稟(う)け、陰気偏盛と陽気偏虚の者、則ち膀胱と腎気倶に冷え、温にて水を制すること能わず。則ち小便偏多し、或は遺失を禁ぜざるなり、と。
(訳: 『病原論』にいうには、人は睡眠中、知らないうちに尿が出る者がいる。これは生まれつきの体質が陰気偏盛で陽気偏虚の者は、膀胱と腎気の両方が冷えると、温補によって体内の水を制御することができない。そこで小便が偏って多くなったり、あるいは漏らしてしまうのである、と)
これに対して治療法も載っており、これは訳文のみ載せますが「大麻の根皮を刻んだもの三升を、五升の水で煮て一升八合に煎じ、滓(かす)を除き、八分ずつ二回に服用せよ。小児の場合には、この量を減らすこと。」
とかなり具体的な処方が掲載されております。
現在はもちろん大麻を入手することはできず、これと同じ処方はできませんが、古くから人類がなんとか身近で使用できる植物など自然のものを薬として使おうと知恵を蓄積していった姿勢の片鱗は窺い知ることができます。
大麻について肯定的なことは言えませんが、人類はそういった「薬物」を発見するために様々な植物などを徹底的に調べ、ときには実際に飲んだり食べたりしてその効能を試してきました。そういった好奇心や新規性が一方ではペニシリンやの発見など、素晴らしい業績につながったわけです。
医学の古典を読むと、ときにそういった先人たちの挑戦が垣間見えて大変ロマンを感じますね。