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昨日紹介した漫画主人公のモデルになったとされる役者さんと "万博によるグリ下の壁" について院長が思ったこと。

[2025.05.12]

昨日は 吉田秋生 先生の名作、『BANANA FISH』について述べてみました。大好きな作品なので書いていて楽しかったです。金髪の美少年アッシュ・リンクスが、ニューヨークの裏社会でドロにまみれながらも美しく生きる姿を描いた物語――「漫画に芥川賞を贈ることができたら是非この作品を候補に挙げたい」と思う、院長の心を撃ち抜いた作品です。

このアッシュのモデルになったのが、リバー・フェニックス。あの名作映画『スタンド・バイ・ミー』で光る演技を見せた天才子役です。彼はわずか 23 歳という若さで、薬物の過剰摂取、いわゆるオーバードーズで命を落としました。

リバー・フェニックスの死から 30 年以上経ったいま、日本でも「若者と薬物」の距離がじわじわと縮まってきている気がします。しかし、それはかつて暴力団の資金源になった覚醒剤やヘロインなどの違法薬物ではなく、合法のもの。たとえば咳止めや風邪薬など、誰もが薬局で購入できるクスリのオーバードーズです。実際、最近のオーバードーズ関連救急搬送は、10 代・20 代が多いという報告があります。X などの SNS で "OD、やり方" などで検索すると出るわ出るわ・・・。そのほとんどが 20 代以下(と思われる)若いひとからの発信です。

薬物や自傷行為、家出、性的虐待。そんな「問題を抱えた若者たち」が、かつて身を寄せていた場所がありました。大阪・グリコの看板の下――通称「グリ下」です。夜になると、地べたに座っている若者、ぼーっと立っている子たち、誰かと待ち合わせしているような、していないような。何かの「はざま」にいる子たちが、そこには確かにいました。

けれど、2025年大阪・関西万博に向けて、その「グリ下」には大きなが立てられ、若者たちはその場から姿を消しました。壁を建てたことで問題は解決したのか――?答えは、きっと NO でしょう。

若者たちは、「いなくなった」のではありません。きっと彼らは単に「見えなくなった」だけ。SNS、ホテル、夜のコンビニ、深夜のカラオケ、個室ビデオ、24 時間営業のファストフード店――。物理的な「居場所」は、以前よりももっと分散し、もっと見つけにくくなってしまいました。

相談窓口?アクセス方法がわからない。病院?ハードルが高い。家族?最初から頼れない。学校?もう通ってない。

そして、そんな中で静かに行われているのが、「オーバードーズ」です。バファリン、ロキソニン、睡眠薬、咳止め――「薬局で買える薬」で命を削る行為。

アッシュ・リンクスは、圧倒的な暴力の世界の中でも、最後まで「自分だけの正義」を貫こうとしました。暴力に巻き込まれながらも、友や愛を信じ、傷つきながら戦い続けました。

では、われわれ大人は。特に医療者は。この日本社会に生きる未来ある若者たちに、どう接すべきでしょうか?ー簡単な答えはありません。

ただ、「万博のために見苦しいものには壁で隠そう」「問題のある若者たちはとりあえず旅行者の外国人たちから見られないように "とりあえず" どこかへ行ってくれればいい」そんな空気に流されているだけでは、いずれ “見えなくなった問題” がもっと大きく、もっと痛ましい形で現れてくるでしょう。

それは決して「医療」「福祉」「教育「だけの問題ではありません。コンビニで困っている子を見かけたとき、声をかけるかどうか。自分の子どもが急に口数少なくなったときに、何ができるか。学校で「薬をたくさん飲んだ子」がいたときに、責めるのか、寄り添うのか。

ひとりひとりが、すぐ現実に起こり得るこういったシチュエーションで何ができるか、すべきか、ということ問い直すことが大切なのではないかと思います。

院長はこれまでに医療者として、何回か中学生や高校生向けに薬物に関する講演をさせてもらった経験があります。一介の開業医にできることはわずかですが、例えば院長の講演を聴いてくれた学生が、ほんの一握りでもよいので、今後この厳しい世界で生きていくのに助けになればと思いながら、引き受けてきました。

若いひとこそ地域・日本という国・そして世界にとっての宝です。彼らが、「自分で自分の生をあきらめてしまうような絶望を抱いてしまう」ことだけは回避できるような社会であってほしいと願う月曜日でした。

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