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『海街 diary』も 134 号線付近の風景がたくさん出てきて大好きな作品ですが吉田秋生先生といえばやはりコレ。

[2025.05.11]

最近 YouTube でよく "Chill music" で検索して出てくる音楽を流しながら書類作業をしています(現に今もそうしています)。チルミュージックとはクラブで踊ったあとにクールダウンするときの音楽などが始まりのようで、「聴いていて落ち着く・リラックスできる」音楽を指します。YouTube で "Lofi Girl" という、チルミュージックを聴きながら女の子が勉強するチャンネル(本日検索時点で 1490 万登録!)が人気になるなどしてメジャーになったジャンルです。 ゆったりとしたテンポにどことなくノスタルジックなメロディラインが乗り、シンセサイザーやエフェクトを用いた温かみのある音色で、英国ロックが好きな院長がクルマに乗っているときにかける BGM ではないのですが、仕事するときにはなんだかとっても効率がよくなる感じがしています。 優しく耳に響く音色なので、作業中の心に “癒やし” を感じさせてくれるからかもしれません。

このチルミュージック、1980 年代頃からクラブで普通に流れるようになったそうですが、そんな 1980 年代に連載が開始され、現在も圧倒的な読後感を得られる名作マンガを紹介します。吉田秋生 先生の『BANANA FISH』です。

あまりにも有名ですが、一応この作品を簡単にご紹介すると、天才的頭脳と美貌を持ちながら、ニューヨーク裏社会で生きる少年アッシュ・リンクスと、日本から来たカメラマン見習い・奥村英二との間に芽生える信頼と友情を軸に展開する、壮絶で、そして心打たれる物語です。

ドラッグ、虐待、戦争後遺症、LGBTQ+、人種差別…… 1980 年代のアメリカ社会の暗部が容赦なく描かれる一方で、アッシュと英二の間にだけ流れる穏やかな時間が、読者の心をふっと和ませてくれる。そんな、強さと儚さが共存する物語です。そんな作品を少し無理やりかもしれませんが医療者の視点で語ってみたいと思います。

1. アッシュの「生きづらさ」とトラウマ

アッシュは、性的虐待や裏社会での過酷な体験を重ねた少年です。現代の言葉でいえば、PTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状を強く抱えたまま、日々「戦場」を生き抜いています。彼のような存在は、決してフィクションの中だけではありません。
日本でも、虐待やいじめ、家庭内不和、あるいは過労や看取り体験などから精神的な傷を負い、クリニックに訪れる患者さんが少なくないのです。

私たち医療者ができることは、「薬を出す」だけではありません。
むしろ、「話を聞く」「存在を否定しない」「あたたかい目で見守る」といった“非言語的なケア”こそが、時に最も大きな治療になる。

アッシュにとっての英二のような存在に、私たちがなれるか?そんな問いを、われわれ医療者は日々自分に投げかける必要があります。

2. "BANANA FISH" という薬の怖さ

作中に登場する "BANANA FISH" という謎の薬物は、人体の神経を狂わせ、対象者を操ることができるという恐ろしいもの。これは架空の薬ですが、実際の医療現場には当然ながら「精神に作用する薬」は存在します。抗うつ薬、抗不安薬、向精神薬などですね。

もちろん現代の医療では、厳格なガイドラインのもとで使用されていますが、それでも「この薬、本当に効いているの?」「副作用がきつくてしんどい……」と感じる患者さんも少なくありません。薬というのは、万能ではありません。
同時に、医師側も「処方したから終わり」ではなく、「使う側に寄り添い、共に調整していく」ことが何より大切。

アッシュが BANANA FISH を使われた兵士たちに怯えるように、現代でも心療内科や精神科の患者さんが「自分が薬に支配されているのではないか」という不安を感じることがあるといわれます。それに対して、「薬は道具であって、あなた自身の本質を変えるものではない」としっかり伝える必要が、われわれ医療者にはあると思います。

3.「僕たちは何処へ行くのか」という問い

物語のラストは衝撃的で、院長の脳裏にはいつでもあの "図書館でのシーン" を思い出すことができます。詳細は語りませんが、現実の医療においても、「命の選択」や「人生の最終段階の意思決定」というテーマは避けて通れません。例えば、がん治療における緩和ケア。あるいは高齢者の終末期医療。延命治療を続けるか、自然な形で看取るのか――それは、「どこで死ぬか」ではなく、「どう生ききるか」の問題です。

アッシュの生き様は、極端かもしれませんが、われわれに「生きるとは何か」「大切な人と何を共有するか」という普遍的な問いを突きつけてきます。医療現場にいると、誰もが「死を避けたい」と願うけれど、「避けられない現実」とも向き合わなければならない。だからこそ、英二のように「そばにいる」ことがどれだけ尊く、どれだけ力強いか、思い知らされるのです。

4. 英二のやさしさと、医療者のまなざし

アッシュがどれだけ冷酷な戦士になっても、英二の前では “少年の表情” に戻る。その変化は、読んでいるこちらの心までほぐされます。クリニックに訪れる患者さんも、最初は硬い表情で来られることが多いです。症状への不安、検査への緊張、過去の嫌な医療体験――いろいろな「壁」を抱えている。でも、笑顔で迎え、安心して話せる空間があれば、ほんの少しずつでも「その人らしさ」が戻ってくる。まさに英二のように、相手の痛みに正面から向き合い、「ありのままを受け入れる」ことが、医療にも求められています。当院はココロの病気を専門に診るところではありませんが、以前ブログで書いたように、「できれば 1 回の診察で 1 回は笑顔になってもらう」ことを、院長はじめスタッフは心がけております。医療に関係のないことでももし何かありましたらご相談ください。時間の許す限り対応し、「聴く」医療を実践していきたいと思います。

吉田秋生先生の『BANANA FISH』は、一見するとアクションと暴力に満ちた物語です。しかしその奥に流れているのは、「命は重い」という、揺るぎないメッセージなのかも。命にどう向き合うか。何を信じ、誰を信じるか。それは、われわれ医療者にとっても毎日突きつけられているテーマです。

「アッシュ・リンクスが、子どもらしく、少年らしく、青年らしく、アタリマエの日常を送れるように」。そんな願いを込めて院長はまた明日から、微力ながらも皆様に頼られるクリニックでありたいと思います。とりあえず『BANANA FISH』は是非ご一読を!!

↓ 一番好きなアッシュはこのコマ(フラワーコミックス 18 巻のラスト付近)。

 

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