免疫チェックポイント阻害薬ーニボルマブ承認から 10 年が経過
本庶佑先生がノーベル賞(医学生理学)を授与されたのが 2018 年。PD-1/PD-L1 とよばれる、がん細胞が自らを免疫細胞からの攻撃を受けないようにするシステム発見の業績によるものでした。
この PD-1/PD-L1 の結合を阻害することで抗原特異的 T 細胞と呼ばれる "がんを攻撃する免疫細胞" を活性化して腫瘍を攻撃しよう、というのがこの PD-1/PD-L1 システムを利用した創薬、ニボルマブ(商品名オプジーボ)です。一般的には「免疫チェックポイント阻害薬」と呼ばれます。
これは本庶先生の研究が創薬につながった画期的な成果で、2014 年 7 月 4 日に製造販売承認を取得してから、今年で 10 年が経過ました。
当時院長は国立がん研究センター東病院に在籍し、腫瘍内科の担当で臨床試験としてこのオプジーボを投与されていた患者さんがいました。膀胱がんが全身性に転移し、特に頸部のリンパ節は非常に大きく腫大していたため嚥下(飲み込み)にも支障をきたすような状態であったため、「非常に厳しい」状況だったのですが、このオプジーボによりほぼすべての病変が消失してしまいました。当時そのような広範な転移病変を認める膀胱がん患者さんの腫瘍が消失するという経験はほとんどなかったので大変驚いたのを覚えています。
その後オプジーボ以外の免疫チェックポイント阻害薬も登場、投与される患者さんも増えてくると危険な副作用を経験することもありました。しかしながら「免疫関連の副作用が出る患者さんのほうが、がんにもよく効く傾向がある」というデータも出てきて、現在では「できるかぎり致死的合併症にならないように副作用を十分管理しながら投与していく」というスタンスで全国で使用されています(それでも 1-2% は不幸な転帰をたどることもありますが)。
オプジーボを製造・販売している小野薬品工業とブリストル・マイヤーズ スクイブは、がん治療に関わる医師 100 人とがん患者さん 900 人を対象にアンケート調査を実施したそうです。その結果、医師の 90% は「免疫チェックポイント阻害薬はがん治療の選択肢としての地位を築いた」と回答、87% は「さらなる発展を期待したい治療法である」と回答し、免疫チェックポイント阻害薬によるがん免疫療法が実臨床に定着したことが示されています。
高額な薬剤費など、医療経済的に解決すべき課題もありますが、新しい治療が可能になるということは人類にとって基本的には歓迎すべきことです。今後も分子生物学的に "理にかなった” 新薬が開発(特に本邦発の)されていくことを祈念したいと思います。
写真は https://www.works-i.com/works/series/seikou/detail004.html より。