本日は日本人初の美容整形俳優とされる演じ手の命日です
最近医療系ニュースで出てくる用語で「直美」をご存知でしょうか。直美さんという女性の名前ではありません。医師のなかで 2 年間の研修を修了したのち「直ぐに美容整形のクリニックに就職する」ひとのことで、「チョクビ」と呼びます。
院長が大学を卒業した 2001 年はまだ研修医制度そのものがなく、当時は美容整形のクリニックというのも数えるほどしかありませんでした。そういった施設にアルバイトに行く先輩はいても、常勤として働く医師は当時相当少なかったと思います。
しかしここ 3 年で美容を専門とする医療機関は 1.5 倍近くになり、美容医療市場も 6,000 億円を超えて拡大傾向と報道されており、今後しばらくは直美の若手医師も増加していくでしょう。
2000 年代、院長が卒業した大学で学生が「卒業したら美容に行きたい!」とでも口走ろうものなら教授の面々から「お前はカネに魂を売ったのか」「医師は清貧であるべきだ」「美容に行ったら胸を張って『自分は医者です』と言えなくなるぞ」みたいなことを言われる雰囲気でした。
しかしながら「若手医師の給料の安さ」「過酷な労働環境」「技術を磨いて手術がうまくなっても給与が変わらない年功序列システム」「医局という一般の方にはよくわからない組織の采配による働きたい施設に行かせてもらえない状況」など、われわれ世代が感じていたであろうこと(上記のすべてを院長が感じていたわけではありません。「世代」として感じられたということです、念のため)を若い直美の先生方はそばで見ていたのだと思います。そして「保険診療よりも自由診療の美容に行こう」と前向きな気持ちで進路を決めたと院長は信じたい。
現在美容業界も競争過多の時代になっており、本当に命がけで仕事をしないと生き残れません。今後しばらく直美やそれに類似した流れは続くと思いますが、彼らも保険診療と同様「患者さんの人生に医療を通じて貢献する」というところは共通です。あまり彼らの生き方に眉をひそめても仕方がなく、医療界全体のトピックとして大きな視点で議論をしていくべき事象かと思います。
ところで、本日 1 月 5 日はイプセンの名作『人形の家』で主人公ノラを演じた明治・大正時代の名優、松井須磨子の命日です。この方は日本初の「美容整形を受けた俳優」と言われているので上記のような話題を取り上げてみました。ちなみにこの松井須磨子は『人形の家』舞台版の訳と演出を行った島村抱月と不倫関係にあり、島村がスペイン風邪で死亡するとその 2 ヶ月後に首を吊って自死、という最期を迎えたことも有名です。大正生まれのおばあちゃんが「私は見たことがないけど松井須磨子はすごく素敵な演じ手さんだったと大人たちが当時言っていた」と昔よく話してくれたことを思い出します。
イラストはノラのイメージ。『人形の家』は本よりも舞台のほうが面白いです。2000 年に日下由美さん主演の公演を観てすごく良かったのを覚えています。