メニュー

ありふれているが新しい病気のはなし

[2024.03.13]

米国大統領選が話題になっています。特にトランプがどのような動きをみせるか、みたいなことで。日本への影響も大きいので自分も注視してまいります。

ところで在勤期間が最も長い米国大統領をご存知でしょうか?

答えは第 32 代、教科書によくヤルタ会談に出席した写真が載っているフランクリン・D・ルーズべルトです。米国史上唯一の 4 選を果たした最長在勤期間記録をもつ大統領です。初代のワシントンが 3 選を辞退したというエピソードから大統領は 2 期まで、というのが慣例でしたが、戦時中ということで特別に 4 選されました。

ルーズベルト大統領の死因は異常高血圧による多発脳出血でした。いわゆる脳卒中で突然死亡したのが 1945 年 4 月 12 日ですから現在の西東京市が米国の空襲で被害を受けた日で、終戦のわずか 4 ヶ月前でした。彼は日本びいきと言われており、終戦直前の時期に米国大統領がトルーマンではなくルーズベルトであったら広島、長崎への原爆投下は行われなかったのではという歴史家もいます。

ルーズベルト大統領の高血圧は任期の 2 期目から認められたという記録があります。就任時 136/78 だった血圧はその後162/98、さらに 188/105 と上昇傾向を示し、終戦前の 1944 年 4 月には 200/108 となったとのことです。その頃から咳が続き、うっ血性心不全と診断されジギタリス(かつて急性心不全でよく使われた薬です。最近は新たな薬の登場により使用頻度が減っています)の服用でやや改善しましたが、大統領 4 選を目指した遊説中の 1944 年 11 月は血圧が 260/160 にも達し、死亡当日の血圧はなんと 300/190 だったということです。スゴい数字ですね。

当時高血圧自体は治療の対象とされず、むしろ「血圧が高いことは障害を有する臓器の血流維持するために役立つ」とされ、高血圧を肯定する考えが主流でした。心臓の筋肉が厚くなる心肥大も高血圧に対応する好ましい変化とされ、高血圧はよほどの合併症がないかぎり治療されませんでした。

高血圧 → 治療すべき、という意見は 1949 年に始まった米国マサチューセッツ州のフラミンガム、1961 年に始まった福岡県の久山町の大規模疫学研究を受けてのものです。これらの結果により、血圧だけではなく血液中の脂質や血糖が多くの病気と関連することや、遺伝的な素因・生活習慣との関係なども少しずつ明らかになってきました。これらの研究結果は今でも多数の論文で引用されています(久山町研究の初論文は https://www.jstage.jst.go.jp/article/ihj1960/5/1/5_1_12/_pdf/-char/ja で全文を読むことができます)。

世界中で日々たくさんの患者さんが測定している血圧ですが、その治療に関する歴史はまだわずか 60-70 年程度の道のりです。高血圧は、今後も診療に役立つ知見が次々と出てくる「ありふれているが新しい疾患」といえると思います。

血圧が気になる方、まずは減塩醤油や減塩チーズなど、身近なところからはじめてみましょう。

写真は院長が大好きなサッポロ一番みそラーメンですが、その減塩商品です。味の違いはほとんど気づきませんでした。味オンチだからかも?

▲ ページのトップに戻る

Close

HOME