ガイドライン
臨床医が 1 年に何回も見返す本として、ガイドラインというものがあります。
ガイドラインとは、国立がん研究センターが運営している「がん情報サービス」によると、「エビデンスなどに基づいて、最良と考えられる検査や治療法などを提示する文書のことです。 診療ガイドラインは、患者と医療者を支援する目的で作成されており、意思決定の際に、判断材料の 1 つとして利用されることがあります」と定義されます。
これが各種がんはもちろん、生活習慣病その他の分野においても非常に多数発行されており、院長が週に少なくとも 1 回は目を通すものだけでも
・糖尿病治療ガイド 2022-23
・CKD (慢性腎臓病)診療ガイドライン 2023
・高血圧治療ガイドライン 2019
・血尿診断ガイドライン 2023
・動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2022
・高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン 第 3 版(2022 年)
・欧州泌尿器科学会(EAU)発行の各種ガイドライン(毎年改訂) ・・・
などがあります。これらだけでもほんの一部で、ほかにも多数発表されているため、とてもすべてをアタマにいれるのは難しいです。
こういったガイドラインはあくまでも「指標」であり、このとおりやらないとだめ、というものではありません。むしろ患者さんひとりひとりにあわせて診療を行う際にはこういったガイドラインの存在がマイナスになることもあります。
しかしこれまでにガイドラインを遵守しないで行った診療行為についての医療裁判で、「一般にガイドラインは、作成時点で最も妥当と考えられる手順をモデルとして示したものであることが認められ、具体的な医療行為を行うになたって、ガイドラインに従わなかったとしても、直ちに診療契約上の債務不履行または不法行為に該当すると評価できるものではないが、当該ガイドラインの内容を踏まえた上で医療行為を行うことが必要であり、医師はその義務を負っていると解される」という裁判官のコメントが示されたことがあります。
ただ、例えば前立腺がんの治療薬について、日本泌尿器科学会・米国の主要ながんセンターによる非営利団体である NCCN・米国泌尿器科学会・欧州泌尿器科学会で見解が異なることがあります。この場合、万が一医療裁判となったとき、「海外のガイドラインは毎年改訂されるが、日本のガイドラインは 4-5 年に 1 回しか改訂されないが、国内の現場で日本人を相手にしているので日本のガイドラインを優先すべきなのか」など、考えるべき問題は少なからずあります。
残念ながらすべての疾患について、すべてのガイドラインや指針をアタマに記憶することは不可能ですし、患者さんへの説明責任を果たしている限りにおいて、医師には診療についてある程度の「裁量権」が認められるべきだと思います。院長は可能なかぎり患者さんに十分な説明を行っているつもりですが、ひととひとのコミュニケーションです。ときに一方通行になったりうまく伝わらないときがあるものです。そういったときは別の機会に院長に聞いてみる、看護師などのスタッフに声をかけていただく、などしていただければ大変ありがたいです。
写真は欧州泌尿器科学会のガイドライン(ポケット版です)。分厚いですよー(辞書みたいです)。