日々摂取しているものでもときに中毒を来すことがあります
昨日に引き続き水についてのお話。
臨床医は患者さんの状態を把握するために採血をして血清(血液全体から(『はたらく細胞』で有名な)白血球・赤血球などの「血球成分」を除くと、液体成分である「血漿」となります。この血漿からさらにフィブリノゲンと呼ばれる止血に重要な糖とタンパク質の複合体を除いたものが「血清」で、基本的にわれわれ医師が「あなたの検査値は・・・」みたいなハナシをするときはたいていはこの「血清中における物質の濃度」を指していることが多いです)中のミネラルを測定します。そのなかでまず 100% と言ってよいほど検査項目として評価するのがナトリウム(Na)(とカリウム)です。
そのなかで今回は Na について。
Na が低下する「低 Na 血症」は臨床の現場でよく目にします。このとき例えば心不全では「Na が増えているがそれよりもさらに水が過剰となっている」など、様々な病態があります。
この低 Na 血症を外来でみたとき、必ず聞くのが「1 日の水分摂取量」です。最近は少なくなりましたが、2008-2015 年頃でしょうか、この時期は本当にテレビや雑誌で「脱水予防」とか「ドロドロの血液をサラサラにするために」とか「熱中症を起こさないため」など、様々な理由で特に高齢者に水分摂取を促すキャンペーンみたいなものがされている印象がありました。なかには 1 日食事のほかに 2 リットルの水を飲みましょう、とか言っているコメンテーターもいて驚いたのを覚えています。
これをあまりに忠実に守ってしまうとときどき「水中毒」となってしまいます。これは例えば少し汗をかいたから、ということで 1 日 2 リットルの水分を摂取していた方が「少し多めに」ということで 2.5-3 リットル摂ってしまったりすると、過剰の水摂取により血清の Na などのミネラルが薄められてしまい,その結果生じる低ナトリウム血症です。
主な症状としてめまい・頭痛・多尿(頻尿)・下痢などがで、Na が急激に極端な低下を来すと重症化して嘔吐・錯乱・意識障害・呼吸困難などの症状が表れ、死亡例も報告されています。
必要な水分摂取量は本当に一概に言えないので難しいのですが、院長の感覚ですときちんと食事を摂っている方で極端な発汗を伴わない日常生活を送っている方であれば (体重 kg) x 20 cc くらいでよいのではないかといわれています。もちろん気温や湿度、作業内容や食事内容(塩分が多い食事を摂っているならもっと必要となる)によって変化しますし小児や高齢者でも同じようにはいきませんが、ある程度の目安としてください。
特に院長が専門とする腎・泌尿器の疾患をもっている患者さんは水分摂取の習慣は腎機能保持・快適な排尿状態維持のために重要です。疑問がありましたら是非診察時にお声がけください。必要時には当院栄養士の指導も含めて飲水・食事指導をさせていただきます。
過剰な水分摂取は毒になりうるので注意!画像は https://www.timesnownews.com/lifestyle/excessive-water-intake-may-cause-death-know-how-much-water-is-too-much-article-95689052 より。