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経口糖尿病治療薬第一選択の「プラスアルファ」

[2024.04.20]

当院にはおよそ 300 名ほどの糖尿病患者さんが来院されております。院長は糖尿病専門医ではないのでインスリン注射や血糖値 250 をコンスタントに超えるようなコントロール不良の患者さんは専門医の先生に紹介しているので、比較的軽症の患者さんを診ていることになります。

糖尿病診療のなかで最も多く処方しているのがビグアナイド系と呼ばれるお薬の「メトホルミン」です。これは

・肝臓での糖生成をおさえる

・末梢組織でインスリンの「効き」をよくする

・腸管からの糖吸収をおさえる

などの高価があり、「インスリン分泌非促進系」に分類されます。

当院で昨年 1 年間で新規に治療を開始した 13 名の患者さんにおいて、糖尿病の治療コントロールの指標となる HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)が平均で 1.2% 低下しました(投与量は 1 日 500〜1500 mg)。肥満例だけでなく非肥満例でも使用でき、メトホルミンの使用により糖尿病に関連する全死亡や心血管イベント発生率が低下することも多数のデータからわかっていること、単独で使用する限り、「シックデイとよばれる体調が悪い日に服用しない」ことを患者さんに守って頂ければ非常に安全に内服でき、さらに薬価も非常に安い(1,000 mg/日内服して 1 日 40 円くらい)ことから、非常に使いやすい薬です。

そんなメトホルミンに、院長の専門である泌尿器科腫瘍と関連する研究結果が Journal of the National Cancer Institute (JNCI) という、非常にレベルの高いジャーナルの今月号に発表されました(https://academic.oup.com/jnci/article-abstract/116/4/518/7593813?redirectedFrom=fulltext)。

これによると、メトホルミンを使用したことがあるひとは、使用したことがないひとよりも 12% 泌尿器科腫瘍(前立腺がん、膀胱がんなど)になりづらくなる、ということです。これは「メタアナリシス」という多くの論文をまとめて評価する手法で導き出された結果であるため、そのまま鵜呑みにはできませんが、院長としては今後さらにこの薬を第一選択として使いやすくなりました。

がんの抑制効果の機序についてはまだまだ完全に解明されていないものの、メトホルミンがインスリン産生を増大させない(インスリンとその関連因子は一部の悪性腫瘍の発生・増大を促進するといわれています)ことや、がん抑制遺伝子(がんの発生をおさえる、いわば「善玉」の遺伝子)をより活性化する作用があることが要因と考えられております。

糖尿病の患者さんでは非常に発見が難しく、難治性がんとして有名な膵がんの発生が非糖尿病の方よりも多く、糖尿病治療薬でこのような「一石二鳥」の効果が得られることは喜ばしいことだと思います。メトホルミンは腎機能が悪いひとには使えなかったりと注意すべき事項もありますので、十分に治療対象を検討し、今後もこの薬をうまく使って「糖尿病になっても一般の方と変わらない寿命と QOL(生活の質)」を目指してまいります。

先発品の商品名は「メトグルコ」ですが、患者さんが特に希望しない限り、医療経済を考えて安価で効果に大きな差異はないと考えられるジェネリック(メトホルミン)を処方しています。

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