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論文における "言い訳" とはーリミテーション

[2025.01.16]

YouTube を観ていたら「科学的な根拠(=とりあえずエビデンスと呼んでおきましょう)に基づいているっぽい」YouTuber の方がこんなことを言っていました。「ヒトが異性に好意を持つときは一目惚れが 70% 以上を占めていることが米国の△△大学(アイビーリーグの一流校)研究チームの検討で示されています」。・・・まあわかりやすい主張。

一方、むかし「恋愛を学術的に研究している先生の論文(某大学の心理学准教授)」を読んだことがあるのですが、その内容は「一目惚れもあればずっと同じ空間にいることで醸成される好意もあるし、むしろ苦手だったヒトの意外な行動によるギャップ萌えで急に好きという気持ちが大きく膨れることもある」みたいな感じで情報が羅列されているような結論でした。・・・うん?結局好かれるにはどうすればよいの?わかりづらい。

上記の 2 名がプレゼンをしたらおそらく前者の YouTuber のほうがオーディエンスは腑に落ちやすいでしょう。この忙しい現代、"So what?(要するにどういうこと?)" に素早く答えてくれるヒトのほうが受けがいいからです。

ではなぜ心理学准教授のハナシはわかりづらいのでしょうか。それはおそらくその准教授は "リミテーション (Limitation) が気になって断言できないから" だと思うのです。・・・リミテーションって?

リミテーションとは和訳すれば「研究の限界」、簡単に言えば「言い訳」です。これは医学に限らず原著の科学論文を読めば必ず最後の結論(Conclusion)前あたりの本文にまとめられて読者がすぐに確認できるよう段落が分けられていることが多いです。

例えば「この研究は 〇〇 という結論が得られたが、後方視的検討(カルテをあとから調べてまとめたということ)なので今後前向き研究が必要だ」とか、高血圧の論文で「この研究は日本人のみを対象としているため日本人・アジア人以外でも同様の結論になるとは限らない」とか、様々な "論文にまつわる言い訳" が記載されてところです。

先程の YouTuber と准教授の例で言えば、おそらく准教授はひとつの学問、ひとつの分野、さらにそのひとつの研究テーマを突き詰めていったひとなのでしょう。しかしそうして深堀りすればするほど(特に数字で結論が出ない人文科学分野はそうなのだろうと推測しますが)混沌としてきて簡単には結論づけられないものです。ですから、医学を含むサイエンスを扱う番組を観るときはこの "リミテーション" をアタマの片隅においておくとよいかと思うのです。

昨日の『ドクター G(ジェネラル)』では見事に腰痛の原因を突き止めて患者さんは無事治療を終了して以前と同じような生活に戻ることができました。しかし臨床の現場では「がんがどこかにあって転移もしているのだけれどいくつもの診療科で何人ものドクターがアタマを悩ませて検討しても結局もともとがんが発生した部位がよくわからない」、いわゆる "原発不明がん" という疾患単位も存在します。

十分、いや十二分な臨床的検討を行っても「はっきりとした診断がつかないという診断名」もある、ということもひとつ知っておいていただければと、昨日の番組を観て思いました。もちろんテレビでの症例検討が「最終的にはよくわかりませんでしたが治りました」では "オチ" ないので番組が成り立たないことは院長も重々承知している、というリミテーションはつくのですが・・・。あぁもう堂々巡り。

とりあえず結論を断じる YouTuber の方や、あやしい医療を売り込む Web 広告などには注意しましょう、という無難な結論で終わりにしておきます。

 

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