院長の書評その 10: 北杜夫先生『夜と霧の隅で』ー
どくとるマンボウこと、北杜夫先生による第 43 回 芥川賞受賞作品です。北杜夫先生は父親が斎藤茂吉先生、兄が斎藤茂太先生で、親子 3 名すべて医師かつ文学者という一族に生まれた方です。一家の様子は『楡家の人びと』を読むと垣間見ることができます。
本作品はナチス支配下のドイツ国内で、いわゆる優生思想・選民思想から決定した難治の精神疾患患者に安死術を行うという国の決定に、悩み反発する医師たちの苦悩を描いた作品です。戦争、しかももう母国の敗戦濃厚という極限状態で。悩みに悩み抜く精神科医の葛藤が精緻に描かれています。
日本でも戦時中は精神科病院入院患者さんの犠牲者が 50% 以上だったという記録があるそうです。ほとんどは栄養失調による衰弱死で、これはなかなか配給がこういった患者さんには回ってこなかったからということです。
過酷な状況・厳しい環境において社会的な弱者をどこまで正当に守ることができるか。現代は戦争はともかく地震などの災害が多いわが国では常に考えておくべき命題かと思います。是非ご一読してみてください。
ちなみに芥川賞の選考において本作品は最も「満場一致」に近い選考結果で受賞が決まった作品だそうです (https://prizesworld.com/akutagawa/senpyo/senpyo43.htm)。ただ、◯ とか ◎ が少なくても受賞する作品もあったりと、ノーベル賞もそうですが、こういった選考というのはクリアカットな結果ではないことも多いですね。
個人的には日本人のドクター高島は生き延びてほしかった。。。
書評も 10 作品を数え一区切りつきました。好きな作品について勝手気ままに述べるのは楽しいですね。また好きな読書で書きたい本が 10 作品くらいたまったらまた書評を書きたいと思います。
明日からはまた日々のつれづれを書きますので気軽に読んでいただければ幸いです。