50 歳近くになっても門前の小僧でありたい
どの仕事もそういう面があると思いますが、生涯にわたり不断の学びが特に必要な職業のひとつが医師業でしょう。院長が学生時代には ADHD という疾患単位などありませんでしたし、最近 4-5 年の新型コロナウイルス感染症とその関連疾患はまさに未知の病態でした。医療により人類が不老不死にならないかぎり、今後も常に新しい疾患群が発見・提唱されていくはずです。こういったことは常に医療に関する情報に対してアンテナを張り、勉強していく必要があります。
特に開業医をしているとさまざまな症状の患者さんを診察します。「吐き気・食欲不振」で来院された方の病態が肝不全だったり、「腰痛・排尿障害」で来られた方が転移をともなう前立腺がんだったり、「顔がかゆい」といって来られた方が帯状疱疹だったりと、患者さんの症状というのは実に多彩です。
すべての診療科に精通できればよいのですが、現在の医学における各分野(呼吸器・消化器・内分泌・感染症など)はそのひとつひとつがとても深く、ひとつの学問分野を修めるだけでも大変な時間を要します。そうなると開業医である院長としては「総合診療」をより深く勉強していくことになりますが、このときに重要なのが様々な講演やそこで行われる質疑応答、さらにいろいろな先生方との雑談などの "耳学問" です。これは「門前の小僧習わぬ経を読む」ということわざにあるように、自分の専門外についての講演でも何回か同じようなテーマのものを聞いているうちに結構な知識がついてくることをよく経験します。特に現在流行中の新型コロナウイルス感染症や、インフルエンザについては非常にありふれた疾患だからこそのピットフォール(落とし穴)や治療薬によるまれな副作用(けいれんや異常行動など)は知っておく必要があります。ひとりの医師が副作用のすべてを経験するのは不可能である一方、何回か似たようなテーマについて、エキスパートの講演を聴くことによって対処法を自然と記憶できたりすることがあります。「皆が知りたいことだが教科書などの成書にはあまり記されていない」情報というのは医療では意外と多く、耳学問による知識が役立ちます。
特に院長専門分野のひとつ、漢方をはじめとする東洋医学については "口訣" という、「師匠から弟子に文書ではなく口頭で直接言い伝えられる秘訣」が古くから多く残されています。院長の漢方医学における師匠は東海大学東洋医学科の野上達也先生ですが、野上先生の外来で語られる言葉のなかにもたくさんの口訣があります。そういった一流の言葉を発してくれる先生が当院の近隣にいらっしゃるというのは大変ありがたいですね。
そういえば医師が診察するときに患者さんに栄養・運動・睡眠などの生活指導をするときも言ってみれば「口訣」の一種なのかもしれません。同じ言葉でも伝え方や表情、図や動画などのツールなど、いろいろなアプローチで伝わり方に差が出てくると思います。様々な疾患・病態について勉強を続け、"患者さんにとって有益な口訣" になるように伝えていければと思っております。分かりづらいな、と思うときはどうかその旨指摘してください!なるべくシンプルに理解していただくようにがんばりますので (*^^*)
イラストは「門前の小僧習わぬ経を読む」の Chat GPT による一コマ漫画です♪