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これまで院長が手術をした外国人患者さんの多くが「日本の医療は素晴らしい」と言ってくれたので懸命に働く現場のスタッフにそろそろ報いるべきときかと。

[2025.05.18]

「朝は 7:30 に病院に出勤し外来の診療を済ませると、昼飯のおにぎりを 5 分で口に詰め込む。午後からは 5 時間の手術があり、その後は患者への説明と指示出しなどの業務。帰宅できるのは午前 1:00 だ。週末も朝 8:30 から病棟を回診。昼になって帰宅し、やっと映画を観始めたものの電話がかかってくる。緊急手術のために呼び戻されて結局 11 時間も病院にいることになる。それでも給料は、提示に帰ることができる他の診療科の医師と変わらない」。

これは 2025/5/10 に順天堂大学で開かれた "消化器外科医がいなくなる日?" という市民公開講座(チラシを下に添付)におけるある演者が紹介した「外科医の(決してめずらしくはない)日々の実態」です。院長が医師になった 2001 年前後では、消化器外科医といえば多くある診療科のなかでもまさに "花形" の診療科でした。2003 年のリメイク医療ドラマ、『白い巨塔(唐沢寿明 版)』でも外科医はカッコよく描かれていましたね。

厚生労働省が実施した医師の労働実態調査(2022 年)によると、週 60 時間以上働いている医師は全体の 20% を超え、中でも外科系の医師はその割合が多いとされています。これは一般的なサラリーマンの労働時間と比較すると、およそ 1.5~2 倍。

また、大学病院や急性期病院に勤務する若手外科医の中には、月に100時間以上の残業が常態化しているケースも珍しくありません。これは「過労死ライン」を軽く超えています。しかも外科医の仕事はただ「長時間」ではなく、「緊張の連続」でもあります。朝早くから回診をし、日中は手術、夕方以降は外来や書類業務。夜間や休日でも、緊急手術の呼び出しに備えて携帯を手放せません。まさにかつての CM のような "24 時間戦えますか" の世界です。

外科医不足の問題は深刻ですが、その一因が「そもそも若手が外科を選ばない」ことです。なぜ若手が外科を敬遠するのか?それは簡単です。

「しんどいわりに報われない」

長時間労働、責任の重さ、プライベートの犠牲、加えて報酬は診療科平均レベル──これでは志望者が減って当然です。しかも、指導医側も豊富な人材がいるわけではなく彼らも疲弊しており、じっくり育てる時間も心の余裕がないため、「優しく教わることに慣れている若手医師」だとますます外科を敬遠してしまいます。手術は患者さんを実験台にするわけには行きません。ですのでどうしても OJT(on-the-job training: 職場で実務をさせることで行うタイプの職業教育)にならざるを得ない実態があり、 「見て学べ」「盗んで覚えろ」という時代錯誤の教育スタイルが一部で残ってしまっています。一人前の医師になるまで 10 年くらいは最低かかりますのでその間に適切な自己研鑽を続ける "モチベーション" の維持が難しい環境なのです。

さらに最近は以前よりも "訴訟リスク" が高くなっていると(肌感として)感じます。これはネット社会になって外科医の間でのみ共有されていたような知識や風土が広く一般の方々に知られるようになってきたことも一因でしょう。手術も大小がありますが、いわゆる「全身麻酔下に 3 時間以上かけて行う手術」は失敗が許されない緊張の連続が強いられることが多く、数ミリの判断ミスが患者の命に直結することもあります。訴訟リスクとあわせて大きな心理的な負担になっています。

そのうえ一部の患者さんは、「医療機関では患者ファースト!」という号令のもとに、医療従事者側への配慮が欠けた言動(ペイシェントハラスメント、略してペイハラ)も一部に見られ、メンタルヘルスの問題を抱える外科医も増加傾向にあります。

あと、これは消化器外科医について言えることですが、彼らはわれわれ泌尿器科医や婦人科医、一部の整形外科医など、"消化器外科以外の腹部外科医" のサポート、という仕事があります。例えば膀胱がんで腫瘍が大きく消化管(S 状結腸や回腸など)に広がり、癒着している場合、術中に声がかかるとすぐに来てくれて癒着剥離や腸管切除+再建をしてくれたり、という大変厄介な病態を解決してくれます。こういった手技による診療報酬は主診療科(膀胱がんならその治療を担当している泌尿器科)に振り分けられるようになっているので、診療科別の「売上」には貢献しない仕事なのですが、これまで院長は、こういうことを依頼した外科医にイヤな顔をされたことが一度もありません。

なぜ彼らは献身的に働くのか。もちろん、外科医としては大きな「やりがい」がある、ということもあるでしょう。実際に手術が終わったあとに、数日で元気になった患者さんが退院時に心からの感謝の言葉をかけられたりすると「疲れが吹っ飛ぶ」とおっしゃる外科の先生もいます。こういったことが「自分の支えになっている」とも。

しかし、「やりがい搾取」になってはいけません。手術とその前後の仕事は大変過酷です。外科は使命感だけで押し切れる仕事ではありません。きちんと休み、適正な報酬を得て、安心して働ける環境があってこそ、「やりがい」が生きてくるのです。

高齢化社会の日本では、外科的治療が必要な患者は今後も増え続けます。がん、心疾患、整形外科的疾患──すべて外科医の力が求められる分野です。もちろん泌尿器科もそうです。にもかかわらず、若手外科医の減少と高齢化が進めば、必要な医療が提供できない「外科医空白地域」が各地で増えていくでしょう。これを防ぐ、または緩和するためにいくつかの取り組みが始まっています。

  • タスクシフティング(業務分担)
     → 術前説明や文書作成を医療クラークが補助するなど、医師の負担を軽減。

  • 働き方改革関連法の適用
     → 2024 年度から、医師の残業時間にも上限が設けられ始めています。

  • 遠隔指導や AI 支援の導入
     → 熟練医が遠隔地の手術をサポートしたり、術中のAI解析で手技をサポートする技術も発展中。

それでも、こうしたツールや工夫だけでは補いきれない「人の技術」が外科にはあります。だからこそ、人材の流出を防ぐ努力は急務です。

 

日本で安心して手術を受けられる、という医療のアタリマエのを支えているのは、日々ギリギリで仕事をしている外科医を中心に、彼らとともに働く麻酔科医、看護師、臨床工学技士などです。彼らの健康とやりがいを守ることが、結局はわれわれが患者となったときにその命を守ることにつながります。夏の参院選に向けて様々な「制度疲労」について話題にあがりますが、そろそろ外科医療もドラスティックにかえる必要があるように思えます。まずはこれまでに軽んじられてきた、日本の医療費における "医師の技術" への対価をもう少し考え直してもよいのではないでしょうか。

開業医ですが、まだまだ手術に携わる機会がある院長は心からそう思います。

 

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