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当院がある神奈川県の医療系大学で行われている医療従事者向けの講座をきっかけに代替医療・統合医療について私見を述べてみます。

[2025.05.23]

当院がある神奈川県には横浜市大・東海大・聖マリアンナ医大・北里大と 4 つの医学部があり、鶴見大・神奈川歯科大と 2 つの歯学部があります。医学部と歯学部が両方ある、というのは東京や大阪などの大都市を除くと意外と少なく、全国でも有数の医・歯学部数を誇る県といえます。

そんな神奈川県にある歯学部のひとつ、神奈川歯科大学で「“ニセ医療”を教えているのではないか」という批判がインターネット上で話題になっている、ということを知りました。早速大学のウェブサイトを見てみると、神奈川歯科大学大学院 統合医療教育センター「統合医療のための高度人材養成コース」というネーミングがされている講座で、年間の受講料が 120 万円、対象は医師・歯科医師・看護師など、いわゆる国家資格に基づく「医療従事者」です。その内容をみると・・・「統合医療各論」として記載されているのが「漢方医学と漢方薬(中医学)」「鍼灸」など、ある程度学問として確立されており、院長も活用させてもらっている分野があり、これらについては「うんうん、なるほど」という感じ。その一方で、先程の講義と同じレベルで「バッチフラワーエッセンス」「サイモントン療法」「点滴療法(オーソモレキュラー、キレーション、ビタミンC、グルタチオンなど)」など、権威ある大学がそれなりの金額を取って教える内容としては「う〜ん、どうかな?」という内容もありました。これらについてはもちろん、院長が不勉強で知らないだけ、ということも多いにありますので簡単に "ニセ医療" とは言えません。どんな治療も最初は "イロモノ" 扱いされるのが常ですので。

 

  • 波動療法とエネルギー医学
  • 抗加齢医学
  • 酸化ストレスと抗酸化
  • がんと統合医療
  • メンタルヘルス・精神疾患と統合医療
  • 歯周病・歯科領域の疾患
  • 放射線ホルミシス
  • ホリスティック医学

院長もこれまで がん専門病院 で藁をもすがる患者さんを食い物にするような医師としての風上にも置けないヒトも存在します。

 

そもそも「保険で認められていない」となった瞬間に、「うさんくさい」「エビデンスがない」「科学的ではない」と感じるヒトは少なくありません。特にわれわれのような医療従事者はそう感じやすいところがあります。これまでに学んできた内容とあまりにも異なるからです。しかし、それらすべてを一律に否定してよいのでしょうか?

この問題を考えるためには、「エビデンスの重要性」と「代替医療の必要性」という二つの観点から、医療の本質を見つめ直す必要があります。

まず、統合医療(integrative medicine)とは、標準医療に加え、補完的なアプローチ(補完代替医療:CAM)を “適切に評価しながら”組み合わせて、患者中心の医療を実現することを目的としたものです。よく誤解されがちですが、統合医療とは「西洋医学を否定して代替療法だけを使うこと」ではありません。むしろ、科学的根拠に基づく標準治療をベースにしながら、そこに補助的に使えるものを組み込む、という考え方です。たとえば、がん治療において副作用を和らげる目的で漢方薬を併用したり、術後の不安感や不眠に対してアロマセラピーや音楽療法を導入したりといったケースがあります。神奈川歯科大学が開講している「統合医療講座」でも、栄養、心理療法なども学ぶことができるようです。それが即「ニセ医療」とされるのは、やや短絡的な判断とも言えるかもしれません。

とはいえ、医療において「科学的根拠(エビデンス)」は極めて重要です。これは揺るぎない原則です。エビデンスに(全く)基づかない治療は患者にとって害になることが多くなります。過去にも、「がんに効く」とうたった高額なサプリメントや波動療法などが社会問題になったことがあります。これらは、効果が証明されていないだけでなく、正しい医療を受ける機会を奪う点でそおういった治療を積極的に薦める医師は批判にさらされるべきでしょう。

そのため、医療従事者や教育機関が代替医療を扱う際には、明確な姿勢が求められます。「エビデンスの有無をはっきりさせる」「代替医療は補助的なものであることを明示する」「効果と限界について患者に丁寧に説明する」といった基本姿勢が必要不可欠です。統合医療に取り組む大学や医師がこれを怠ってしまうと、"ニセ医療" と言われても仕方がないような気がします。

では、なぜ「代替医療」に一定のニーズがあるのでしょうか? それは、現代医学にも“限界”があるからです。たとえば、

  • 慢性的な痛みや疲労に対して、明確な治療法がないこともある。

  • がんの再発予防や生活の質(QOL)の向上といったテーマには、個別対応が必要。

  • 高齢者や多病併存患者では、薬物治療に頼りすぎないアプローチが求められる。

こうした文脈では、エビデンスがまだ弱くても、安全性が担保されている代替的アプローチ(鍼灸・運動療法・瞑想など)に一定の価値があると考えられます。重要なのは「補完的に」「標準医療と一緒に」「効果を科学的に検証しながら」使うというスタンスです。

実際、米国の NCCIH(国立補完統合衛生センター)や英国の NICE(国立保健医療研究所と訳される、適正な医療かどうかを判断する施設) なども、代替療法の評価と正しい導入を進めています。ただし日本にはこれらにあたる組織は見当たらず、それぞれの医師や医療機関が、(言葉は悪いですが)野放図に代替療法の効用を謳っているのが現実です。

今回の神奈川歯科を含め、大学や権威ある組織が統合医療を教える場合は「代替療法を批判的に学ぶ場」として機能すると有益なのではないか、と個人的には考えます。

つまり、

  • どの代替療法がどの程度エビデンスを持っているか

  • どんなリスクがあるか

  • 臨床のどの場面で、どのように使えるか
    を批判的吟味を加えつつ説明し、受講者が学ぶ、という姿勢が必要でしょう。「エビデンスのない代替医療をただ推奨する」のではなく、「批判的思考をもって選択肢の一つとして活用する」力を身につけさせる、という態度を崩さなければとくに批判は受けないでしょう。

神奈川歯科大学の講座について、実情を知らない院長が、あくまでもネットサーフィンして得た内容を判断する限りでは、「まだまだエビデンスが不十分で "医療" と積極的に言っていいものか微妙な施術を "自由診療" の名のもとに(医療機関の営利的なところで)受講者が所属している施設に導入させて、受講者が "医療" において利潤を得る手助けをさせる」範囲を出ていないように感じました。単なる “エセ医療信者養成講座” になってしまっていないか、全くの門外漢ですが院長は勝手に心配してしまいました。

もちろん、すべての代替医療を「非科学的」として排除するのもまた、医療の進歩を妨げる硬直的態度と言えます。現に、昔は「エビデンスがない」とされた漢方薬も、RCT やメタアナリシスを通じて効果が確認されてきています(この部分に自分がいつも教えていただいている東海大学の 野上達也 教授がおられ、野上先生のエビデンス構築に対する不断の努力をわずかですが知っていますので特にここは強調したいです)。

医療の本質は「患者に寄り添うこと」。これにつきます。科学的根拠はそのための手段であり、目的ではありません。現代医療に対する“何か物足りない”という患者の声があるからこそ、統合医療というアプローチが生まれたのです。「西洋医学 vs 代替医療」といった対立構造ではなく、患者の人生や価値観に合った医療を一緒に考える。その中で必要であれば “補完医療” を、批判的な吟味を経たうえで組み込んでいく。そして行われた医療を「やりっぱなし」にはせず後ろ向きにデータを集めて来たるべき前向き検討につなげる・・・そうした医療のカタチこそ、これからの時代に求められる形でしょう。

神奈川歯科大学の例に限らず、「エビデンスのない医療」を扱うことへの批判は今後も続くべきです。しかし大切なのは、「エビデンス」と「ニーズ」のバランスをどのようにとるかを、誠実に考える姿勢です。そのためには「現在の医学で行われる解析方法に準拠した代替療法の科学的な評価」を学術機関がその正当性を担保するカタチで行うことができればいいだろうなぁ、と愚考します。批判に耐えうる科学的根拠をもった統合医療。これはもはや "標準医療" になり得、結果として患者のために “選択肢” を増やすことにつながるはずです。

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