その政策、目先だけではない「本当の損益」が評価されているでしょうか?
性別が異なると全くわからないということがあります。例えば女性の月経に関する諸症状。なかなかこれらをほんとうの意味で理解するのは難しいですが、昨年 2 月に経済産業省ヘルスケア産業課から出された「女性特有の健康課題による経済損失の試算と 健康経営の必要性について」(https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/downloadfiles/jyosei_keizaisonshitsu.pdf)という報告からそれら症状の困難さを経済損失から推し量ることは可能です。
このなかで「規模が大きく、経済損失が短期で発生するため、職域での対応が期待される 4 項目」として挙げられているもののひとつが月経随伴症(あとは更年期症状・婦人科がん、不妊治療)です。これは年間で 6,000 億円もの経済損失があると言われております。6,000 億円というと日本が世界に誇る "漫画コミック市場" 全体が 2022 年時点で 6,770 億円(公益社団法人 全国出版協会の出版科学研究所ウェブサイトより)(コミックス+コミック誌+電子コミック)ですので、1 年間のマンガによる経済効果を吹き飛ばしてしまうくらいの損失があるわけです。
院長は婦人科医ではありませんが、特に膀胱炎で治療が終わった方が「実は冷えがあるせいか膀胱炎になりやすくて・・・」とか「最近生理痛がつらくて・・・」とか「更年期といわれる年になったせいか肌の調子が悪くて・・・」とか女性特有の症状について相談されることがあります。その際に「まず試してみて損がなく、うまくいくと様々な病態が 1 つの薬で快方に向かうことができる可能性がある」のが漢方薬。当院副診療科(漢方内科)の出番となります。
漢方は一般的に西洋薬ほど「キレがない」と思われがちですが、きちっと症状について問診して舌・脈・腹部(特に臍周囲の所見)の所見を取ることで「すべてのお悩み一発解決!」みたいなケースもあります。以前も、長年の便秘が桃核承気湯(とうかくじょうきとう)という漢方方剤 1 日 1 回内服ですっきりと解消し、たいへん喜ばれた女性の患者さんがおられました。
昨日「保険診療から漢方のラインナップが(市販薬で対応できるという意味で)削除されるというウワサ」についてブログで書きましたが、院長はこれに強く異議を唱えます。例えば月経随伴症に対して西洋薬のみで対応すると低用量経口避妊薬などによる治療が第一選択となりますが、血栓症のリスクや女性に多い片頭痛では投与できないことがあるなど、すべての方に使えるものではありません。一方で漢方は処方できない方(投与禁忌)は非常に少なく、女性特有の症状に対する方剤の種類も豊富で外来診療においてわれわれ臨床医の大きな武器となっています。上で述べた経済損失などを考えて 医療費 47 兆 3,000 億円のうち、漢方薬はたしか 1,875 億円くらい(ちょっと記憶があいまいです。誤っていたらどなたか正してください)で、その割合わずか 0.39% です。漢方のすべてが女性特有の症状に処方されるわけではもちろんありませんが、上で述べた 6,000 億円の損失(ちなみに上の「4 項目」すべてをあわせると経済損失は 3.4 兆 (!) だそう)に比べたら安いものですし、女性の症状以外にも「頭痛症状おさえるのに今まで高い西洋薬使ってきたけど北クリニックで処方された呉茱萸湯(ごしゅゆとう)+五苓散(ごれいさん)のほうがよっぽど効いた」という若い患者さんもいました。
医療はヒトの健康に関わるのだからお金を度外視しろ、とは言いませんが「本当に "よい" 医療とは何なのか」ということについてはもう少し議論があってもよい気がします。もちろん漢方を使うわれわれ医師側も(医療経済的なことについても)前向き試験に基づく科学的なデータを出す努力をしなければいけないでしょう。バブリーな時代は忘れて日本は現在、院長の第二のふるさと、滋賀県近江商人の根底に流れる「買い手よし、売り手よし、世間よし」の "三方よし" を常に目指していくべきフェーズに来ており、医療において漢方はその一端を担えるはずと信じます。