どの臓器も重要ですが、より生命維持に関わる臓器はどちらかというと上のほうに。
大きな事故や災害が起こったとき、「発見時、ふたりは "心肺停止" 状態で・・・」などと報道されることがあります。"心肺停止"。その名称のとおり、「心機能および肺機能が停止している状態」であり、多くの場合こう判断されるときはすでにその方は亡くなっていることが多いです。ではなぜ前述のような報道で「ふたりは死亡していました」と言われないのでしょうか。
これは、医師法 20 条で「死亡診断を行えるのは医師のみ」と定められているからです。災害などの現場においては、被災者に医師が近づけない状態にあったり、救急隊により被災者が病院に搬送されている途中などは医師による死亡が未宣告です。このとき、「まだ死亡の診断が確定していない」ということで「心肺停止」という用語が用いられます。大学生のころ、英語の勉強目的で The JAPAN TIMES という、国内のことを英語で読める新聞を購読していたのですが、日本では「心肺停止」とされていても海外の報道機関だからでしょうか、この新聞では「死亡」「遺体」に該当する語が用いられていましたので、海外では「心肺停止」にあたる用語はもしかするとないのかもしれません。
心肺停止は直訳すると "cardiopulmonary arrest" (CPA) となるのですが、医療現場で CPA と言うと、救急外来で「ただちに蘇生を要する患者」という意味で使われることが多い印象であり、いわゆる報道の "心肺停止" とは意味合いが異なる感じがします。
・・・なぜこんなハナシをしたかというと、最近院長が好きなマスコットキャラクターが亡くなった、という報道を知ったからです。東京ヤクルトスワローズの "つば九郎" です。院長は阪神ファンですが、阪神のマスコットキャラクター、トラッキーやほかの球団キャラクターとつば九郎はいつも面白い掛け合いをされていました。彼らは言葉を発さないのですべてジェスチャーで表現をするのですが、それがとってもわかりやすくて面白いんです(興味がある方は是非「つば九郎 空中くるりんぱ」で動画検索されてください)。そのつば九郎さんの死因が「肺高血圧症」という、「心臓と肺双方に関連する疾患」でした。報道によると 52 歳という若さだったそうです。
院長は泌尿器科医ですので手術の対象とするのは腹部骨盤臓器(副腎・腎・膀胱・前立腺など)です。これらの臓器を「外科医の観点」で線引きをすると上腹部(=副腎・腎)と下腹部(=膀胱・前立腺)となります。これは別に上と下、という解剖学的な部位による分け方だけではなく、「上の臓器ほど術中合併症が起こったときにより命に関わる」ということが一番の理由です。例えば、骨盤臓器である前立腺の手術中に大きな血管を損傷しても、多くの場合はなんとか修復できます(もちろん程度はありますが)。しかし、腎周囲の大血管、例えば「上腸間膜動脈」という消化器臓器に広く血流を供給している血管があるのですが、これを損傷してしまうとその修復は極めて困難です。もちろん、このような血管損傷そのものが極めてまれなことなのですが。
ここで、この分け方をさらに発展させると上腹部臓器手術よりもさらに上の胸部臓器、すなわち心臓や肺の手術はさらに合併症が重大な転帰(なにか医学的イベントが起こり、それが一段落ついたときの状態を示す医療用語)をもたらすことがあります。術中「なにか起こった」とき、腎臓より心臓や肺のほうがなんとなく大きな合併症になりそうな気がするのは想像できることと思います。つば九郎さんが罹患した「肺高血圧症」は、肺と心臓という胸部二大重要臓器の両方に関係しますので、非常にざっくりした言い方ですが、「病気として重い」ということになります。
すべての疾患で胸部のほうが腹部より重いわけではないのですが、重要臓器が上半身に多いのは確かです。みなさん、腎臓も肝臓も消化管も大事ですが、心臓や肺も是非いたわりましょう。まずは喫煙されている方は節煙と禁煙、家でゴロゴロすることが多い方は少しずつでよいので定期的な運動を!院長も毎日 8,000 歩は歩くようにしています〜\(^o^)/