自分が考えていることはたいてい先人がいる
院長は勤務医時代に手術に役立つ腎臓の臨床解剖について、3D 画像や 3D プリンターを使って検証・評価する論文をいくつか発表しました。当時使用していた 3D 画像解析ソフトが富士フイルムメディカルの "シナプス・ビンセント" を泌尿器科領域で活用している外科医が少なく希少性があったことから、一応の成果が得られ論文化することができた感じです。2013〜2016 年くらいの仕事です。
ただ、こういった「腎を 3D(立体)化して手術時の解剖に役立てる」という視点は泌尿器科医の大先輩にあたるブラジルの Dr. Francisco J. B. Sampaio(リオデジャネイロ州立大学泌尿器科教授)がすでに 2004 年、「(ヒトと形態が似ている)ブタの尿路にレジン(樹脂)をいれてその形態を再現する」ことで腎穿刺(針を刺して腎の感染を解除させたり腎組織を採取する)時に応用できる、ということですでに行われていました。
しかしながら当時さらに昔の文献をあたってみるとなんと日本の江戸時代に「尿の通り道を立体化する」というわけではありませんが、それに準じたことをやっていた、漢方 ⇒ 蘭方に転身した大坂の医師がいることを知りました。伏屋素狄(ふせやそてき、1747〜1811)先生です。彼は人体の解剖にあたり腎動脈に管(当時まだカテーテルという用語はなかったはず)を差し込んで墨汁を注入し、しばらくしてこの動脈を用手的にはさんで閉じ、腎を手で揉むと尿管から澄んだ水になって出てくることを観察していました。初めに注入した墨汁は血液、尿管を流れる水は尿にあたると考え、「かように腎は小便を漉(こ)す役目であること」をはっきり証明しています。その内容は『和蘭医話』という書物にまとめられました。今から 220 年前の 1805 年(文化 2 年)のことです。すばらしい実証学的研究ですね。
新しい医学の道を照らすには「学問を本で読むことで知るのみではなく、進んで実験や観察により実証すること」が、なにより重要ですので、こういった蘭方医の功績はもっとわれわれ日本人が知っておいてもよいことだと思います。「まず動いてみる」というのが医学に限らず何事においても肝要、ということでしょう。
本日の写真に伏屋素狄が『和蘭医話』を著した前年に生まれた蘭方医で、シーボルトの娘(イネ)を養育したことで有名な 二宮敬作 先生のお墓参りの様子をあげておきます。長崎の皓台寺(こうだいじ)にあります。以前、長崎大学で講演させていただいたときにお参りしてきました。そばにイネのお墓もありましたがとにかく階段をひたすら昇らないといけなかった記憶があります。高台にあって眺めはとってもいいのですが、行かれるときは脱水にならないように水分持参をおすすめします。