2 型糖尿病「安全に使用できるならまずコレ」なくすり
2 つめの糖尿病治療薬としてビグアナイド薬(BG薬)を紹介します。1961 年に販売されたのでもう 60 年以上経過しているおくすりですが、現在(内服可能であれば)どのガイドラインでも第1選択となっているという非常に息の長い治療薬です。
BG 薬は販売後しばらくの間、副作用で死亡例が相次ぎ、いくつか販売が中止され、一時期ほとんど使用されなくなるということがありました。しかしながらその後、BG 薬のなかでメトホルミンの有用性を評価した大規模な研究で見直され、現在広く使われています。メトホルミンは適正に使用されている限り、重篤な副作用があらわれる可能性は低いといわれています。
メトホルミンは肝臓で糖が新たに生成されるのを抑制します。また、骨格筋・脂肪組織での糖消費を促進することでインスリン抵抗性を改善し、インスリンが十分に作用できるようにします。加えて消化管から糖が吸収するのを抑える機序があることもわかっています。このおくすりはインスリンを分泌する膵臓ではなく肝臓に作用しますので、低血糖が生じることは非常に少ないことがわかっています。当院でも 2 型糖尿病の患者さんで最も多くの方が内服されている薬です(36%)。
メトホルミンはいわゆるエビデンス(大規模な臨床試験に基づいて有用性が示されていること)が多数あり、血糖降下作用はもちろん、体重増加も少ないことがわかっています。さらに日本人に多い「痩せ型の 2 型糖尿病患者」にも有効性が認められています。おまけにメトホルミンは他のおくすりと比べて心筋梗塞・脳卒中の発症は死亡の危険性を下げるデータもあります。さらにさらに、メトホルミンには "レガシー効果" があると言われております。レガシー効果とは、「治療初期に使用することでその有用性が生涯にわたって持続する」ということで、これは英国の 10 年以上経過をみた研究で明らかにされました。
加えて、以前ブログでも書きましたがメトホルミンは "サプレッサー T 細胞" という、人体に対する過剰な免疫反応を抑えている免疫細胞があり、これを抑える効果があります。この効果によりがん発生について抑制効果が期待されています。このことについてはもう少し科学的データの蓄積が必要と思います。
ただ、もちろん注意点もあります。体調が悪く食事が摂取できないときや下痢などで脱水症を起こしているときなど、いわゆる "シック・デイ" のときは内服しないようにしなければなりませんし、内服開始後しばらくは下痢症が出現することがよくみられます(整腸剤やしばらく経過をみること等で対応できることが多い)。また、肝機能障害・腎機能障害の患者さんでは使えないケースもありますので開始前に血液データをしっかり確認しておく必要があります。
ただ、安価であり、このおくすりは今後さらに期待してよい経口血糖降下薬といえるでしょう。