自由診療だからなんでもやっていいわけではないと院長は考えます
昨日、GLP-1 受容体作動薬を "やせ薬" として使う場合の問題点を 2 つ挙げました。
まずはひとつ目。「このくすりが持つ副作用を処方している医師や実際の使用者が十分理解しているか」について。
まずはこのくすりの副作用として、心窩部(胃のあたり)不快感・吐き気・下痢、便秘などの消化器症状があります。GLP-1 受容体作動薬というのはこれらの副作用を、いわば利用して「食欲を落として食べないないようにしてやせさせる」効果を得ています。ただしこのとき、食べないようにしても体は生きるのにエネルギーを必要とします。では食べられないとき、われわれ体はどこからエネルギーを補充するでしょうか。それは脂肪・骨・筋肉です。脂肪は燃焼してその量が減っても(肥満傾向の方であれば)問題ありません。しかし一方で、骨と筋肉についてはそれぞれ骨密度は低下し筋肉はやせていくので若年の頃なら大きなトラブルにはなりませんが、将来的に骨粗鬆症やフレイル(加齢により身体能力が低下し衰えた状態)に至ります。すなわち、若い頃のダイエット目的で使ったおくすりによって壮年期から老齢期に大きなハンデを背負う可能性があるということです。
また、頻度は少ないものの、GLP-1 受容体作動薬には薬剤性の胆嚢炎・膵炎・腸閉塞など、極めて重大な副作用も報告されています。さらに糖尿病治療薬である以上、低血糖のリスクは常につきまといます。
NHK の報道によると、いわゆる自費診療クリニックで GLP-1 受容体作動薬によるダイエットを謳っている施設でこういったリスクの説明は 20 施設のうちわずか 3 施設であったそうです。おそらくやせ薬として使用している方の多くがこういった危険性をご存知ないのではないでしょうか。
ふたつめは「(保険適応ではない)GLP-1 受容体作動薬を糖尿病ではない健常な方に投与することで、本来治療を受けるべき糖尿病患者さんへの供給が滞る状況が生じうる」ということです。
これは使用者ではなく処方する医師の倫理観に関わることで、われわれ医師の自浄作用が問われる重要な問題だと思います。
現在、GLP-1 受容体作動薬をはじめ、怪しげながん治療や健康増進・デトックスなど様々な施術?治療?について、医師免許があれば誰でも施行できてしまうという状況があります。これらは本来すべてエビデンスか、もしくは信頼するに値する情報源がなければ施行するべきものではないと思いますが、野放しの状態です。
昨今様々な職種の「ウラ側」がインターネットにより明らかにされてきていますが、医療については幸か不幸か、診療をうけた患者さんの個人情報保護という観点からなかなかその実情がまだ明らかになっていません。今後、美容はもちろんがん診療まで幅広い領域において、社会的同意・医療者としてのプロフェッショナリズム・来たるべき医療の方向性などを踏まえた、医療行為に関する様々なコンセンサス形成の努力をわれわれ医師は率先して継続していく必要があるでしょう。
・・・長々と糖尿病に関するくすりから説教臭いハナシまで連日書いてしまいました。
明日はだいぶやわらかい話題について。先週出席した東京医科歯科大学剣道部の集まりのことを徒然に書いてみたいと思います。
写真は厚生労働省・消費者庁・国民生活センターによる「美容医療を受ける前にもう一度」というパンフレットです。美容だけでなく、医療全体にも通じる内容と思いますので一度是非目を通しておくとよいでしょう。