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医療現場でしかあまり使われない用語も歴史的には面白いので残してもいいのではないでしょうか。

[2025.02.25]

ひとつの業界にいると自分たちが使っている言葉、いわゆる業界用語があまりにアタリマエすぎてその言葉がいかに一般の方に分かりづらいか気付けないことがあります。

例えば電話越しに「カゼを引いて・・・」と辛そうにされている患者さんがいたとします。電話に出ている看護師から院長に「"ネッパツ" の患者さんからです。受けまーす」とか言われます。日常会話ですと「発熱」ですね。銀座を "ザギン" と呼ぶような雰囲気もありますが、この言葉、実はバブル時代にできた言葉ではありません。どんなに遅くても明治時代には使用されていたとのことです。なぜ発熱を逆に読んだかというと、「看護師が切迫感のある変化を表現しようとして転倒させた」という説もあるそうです。

「先生!ハツネツです!」と「先生!ネッパツです!」。

確かになんとなく後者のほうが言いやすくて切迫感があるような気もしますね。

・・・かように医療用語には不思議な使い方がしばしばみられます。

特にほかの施設に紹介状を書くとき、封筒の宛名にこんなふうに書きます。

秦野市戸川 605

 秦野北クリニック 駒井 好信 先生 御侍史

御侍史?ふつうのお便りではまず使いませんね。「脇付(わきづけ)」と呼ばれる、「書簡のあて名の脇(わき)などに書き添えて、敬意を表す語。例、侍史(じし)・机下(きか)」だそうです。われわれは昔から先輩医師に「手紙の宛名最後には必ずこれ付けろよ!」と言われて育てられたのであまり何も考えずつけていましたが、古くには戦国時代に既にみられる用語だそうです。

このように業界で広まっていながら世間一般では使われない言葉は多いですが、歴史をたどるとあながち間違いと言える根拠もなく、日本語語彙の豊富さを保存するためにもこれからも積極的に使っていこうと思っております。なんでも分かりやすさが求められる現代ですが、業界用語も(特に熟語は)味があるものが多いので残っていってほしい。市町村が合併して「南モンブラン市」(TV ドラマ『リーガル・ハイ』より)とかなっていくのがあまり好きではない院長の個人的な感想です。

あと、ときどき「検診のバイトにニセ医師が!」みたいなニュースがありますが、「頭蓋内圧」「鼠蹊部」「瘙痒感」の 3 つを仕事を始める前に読んでもらったらどうでしょう。3 つとも読めればだいたい医者かと思います。あとは「SLE ってなんの略?」とかでしょうか(答えは順に 「とうがいないあつ」「そけいぶ」「そうようかん」、「SLE = 全身性エリテマトーデス」です。臨床医なら 100% 答えられる、と思う)。

本日の内容は 精神科医でかつ医史学や漢字などに関する在野の研究者であられる 西嶋 佑太郎 先生の著書『医学用語の考え方, 使い方』を相当参考にさせていただきましたことをここに謝辞として記載しておきます。

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