昨日は "世界 ◯◯ デー" でしたので ◯◯ に関する医療について考えてみましょう。
院長が敬愛するおばあちゃんに「オレ泌尿器科に進もうと思っているんだ」と伝えたときに、「あぁ、花柳科ね」と言われました。「花柳界」。もはや死後に近いですが、『日本語大辞典』によると「遊女、芸者などの社会。色里。花柳社会」とあります。要するに "艶っぽい業界" のことです。かつて泌尿器科は皮膚科と同一診療科で、「皮膚泌尿器科」として発展していきました(ちなみにこの診療科名称は 2008 年より新しく標榜することはできなくなりました)。これは泌尿器科がもともと「性病科」的な役割が大きかったからとされています。
しかしながら泌尿器科学として独立してからこの分野は大きく発展しました。現在泌尿器科といってもその中には「排尿障害」「尿路結石症」「悪性腫瘍」「女性泌尿器(女性の尿失禁など」「小児泌尿器(先天異常など)」「外傷」など数多くの専門分野が含まれます。それらと並んで重要な分野が「腎移植」です。
毎年 3 月の第二木曜日、すなわち昨日は「世界腎臓デー」。現在食生活の影響やストレス社会・高齢化などにより増加の一途を辿っている「慢性腎臓病」の予防とそのための啓蒙が現在腎臓に関連する診療科(腎臓内科・小児科・泌尿器科・循環器内科・内分泌・代謝内科など数多くあります)の医師にとって非常に大きな仕事のひとつになっております。
慢性腎臓病は進行すると腎機能が低下し、最終的に必要となるのが透析と、先程出ました「腎移植」です。この腎移植。人口 3.4 億人の米国での件数が 25,000 以上(2021 年)。これに対して人口 1.2 億人のわが国では移植件数が 1700 件(これも 2021 年)。すなわち人口は 1/3 なのに腎移植件数は 1/14 くらいなのです。
なぜか。これはわが国ではまず慢性腎臓病の管理がしっかりしているせいもあるかもしれませんし、人種的な差異も影響しているかもしれませんが、やはり大きいのが透析導入件数の違いでしょう。2021 年でいうと、米国での透析患者数は 46 万なのに対して日本は 34 万人。人口が 1/3 の日本の透析患者数が米国並だとすると、34 ⇒ 15 万人くらいになるのが机上の計算になります。
透析が悪いわけでは全くありませんが、院長がこれまでに診た腎移植を受けた患者さん(レシピエントとよばれます)の多くが「透析を卒業することができて本当に嬉しい」と言っていました。もちろん移植に関連したトラブル(いわゆる拒絶反応など)もありますが、医療の進歩によってこういったトラブルはだいぶ治療可能となっています。
さらに日本では腎移植 1700 件のほとんど(正確には 1648/1773= 93%, 2021 年 日本移植学会データより)が生体腎移植、すなわち健常な方(臓器を提供する側。ドナーとよばれます)から片方の腎を摘除し、それをレシピエントに移植する、という例が極めて多い、というかほとんどということが示されています。
ドナー腎摘というのは大変術者にとっては緊張するものです。というのは、腎がんなどで「摘除せざるを得ない」わけではない健常な方にメスをいれ、大事な腎臓を取る手技であるからです。その後の移植まで考えて摘除しなくてはいけないため、取り方もがんの場合と異なりしっかりと血管を長く確保(こうするために大動脈などの大血管に近づかなければいけないので少しだけ危険性が増します)する必要があります。ちなみに多くの場合は手術のやりやすさなどから左腎を摘除します。
透析が素晴らしい医療であることは間違いありませんが、高い医療費・週 3 回の拘束・長期にわたることによる貧血や骨代謝の異常、さらには透析腎がんをはじめとする悪性腫瘍の発生など、マイナスな面もあります。今後は日本人の国民性やわが国の考え方に基づく十分な議論のうえですが、脳死下ドナー、心停止ドナーからの移植が進んでいくことが持続可能な社会のためによいのではないかと愚考しています。・・・これがなかなか難しいことは重々承知しているのですが。
まずは皆様、塩分を控えめにしてしっかりと休息をとり、尿蛋白・血糖・血圧など健診で異常値を指摘されたら必ず医療機関を受診するようにしましょう。ガムの CM 的に言えば「腎臓を大切に」。
イラストは公式のものではなく「世界腎臓デー」でポスターを、とお願いしたら 10 秒で Chat GPT が作ってくれたものです。意外とよくできてる気が。