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カルチャーは英語で「文化」ですが医療ではもうひとつ重要な意味があります。

[2025.03.12]

昨日は膀胱炎について述べましたね。膀胱炎に限らず感染症というのはとっても重要な疾患群で、医学の長い歴史とは「感染症との戦いの歴史」と言っても過言ではありません。梅毒、ペスト、スペイン風邪、エイズ、新型コロナウイルス感染症など、これまでの世の中を一変させた感染症は数多くあります。日本でも「痘瘡」と言われた天然痘、「はしか」と言われた麻しん、「コロリ」と言われたコレラ、「労咳(ろうがい)」と言われた結核など世情を一変させた流行り病には枚挙にいとまがありません。

感染症でわれわれ医師が診療するにあたり大事なことが 3 つあります。それは

  1. どんな微生物による感染症か
  2. どの臓器に感染しているか
  3. どんなヒト(宿主)に感染しているか

2. については要するに「膀胱炎なのか、前立腺炎なのか、尿道炎なのか」みたいなハナシ。3. についてはいつもすごく元気な若い男性が肺炎になったときと寝たきりの高齢者が肺炎になったときは当然治療などが異なりますので感染している患者さん(感染症学的には宿主と呼びます。「やどぬし」ではありません。「しゅくしゅ」です)がどのようなヒトか、ということ。

そして最も重要と言ってもよいのが 1. の「どんな微生物が感染しているのか」です。これまでの人類の感染症史はまさにこの 1. を探索する歴史と言っても過言ではありません。結核菌やコレラ菌を発見し、"微生物学の父" と言われたコッホや赤痢菌を発見した志賀潔など、これまでの歴史に多くの感染症病原体の発見者がいたおかげで現在、われわれは(新型コロナウイルスパンデミックなどの大きなイベントはときに経験するものの)感染症各疾患に対して概ね適切な対応が可能となっています。

そんな病原体のなかで、(ウイルスや真菌ではなく)「細菌」の同定に重要なのが「培養検査」です。この「培養」。英語で culture です。「文化」と同じ単語ですね。これは culture の語源が「耕す」を意味するラテン語の「colere」に由来し、培養検査=細菌を増殖させることがあたかも畑で作物を育て殖やすようなところがあるからです。面白いですね。

膀胱炎診療で最も困るのがいくつかの医療機関ですでに抗菌剤の治療をされ、「それでも治らない」という訴えで当院に来られる場合です。この場合、すでに投与された抗菌剤により細菌量は変化し、本来培養検査で同定される細菌種がわからなくなってしまう、ということが起こり得ます。もともと膀胱炎は圧倒的に女性が多く、女性の尿検体は外尿道口が外方に突出している男性と異なり一部外陰部の常在菌などが入り込みやすく(こういった尿などの標的検体以外の細菌が混入してしまうことをコンタミネーション(略してコンタミ)と呼びます)培養検査結果が修飾されてしまうことがあります。それに加えて抗菌剤投与後となると、培養検査結果をどのようにとらえればよいのか(もともとどんな細菌がいたのか、もしくはそもそも細菌なんていなかったのか)が非常に分かりづらくなってしまいます。

ただ、このあたりが難しいところなのですが、いわゆる元気な方に膀胱炎が起こった場合、抗菌剤内服のみですぐに治癒してしまうので「そもそも培養を全例に行う必要がない」という論文もあります。また、救急外来などではどの施設も培養検査は「緊急検査項目リスト」に載っていないので提出できないところがほとんどです(秦野市の救急夜間診療所もできません)。臨床って学問だけではなく検査体制やコストなどいろいろな社会的要因が加わりますので「正しい」の基準を定めるのが本当に難しいですね。

ただ、院長は泌尿器科医ですので原則として膀胱炎を含めた尿路感染症を疑う場合は原則として培養検査を行うようにしています。のちにその情報が大いに役立つこともあるので・・・。ちなみに培養検査結果(これに薬剤感受性試験と呼ばれる有効と思われる抗菌剤のリストをつけてくれる)は少なくとも 4-5 日程度かかりますので焦らず待機することが必要です。

結論。「文化も培養も耕す、すなわち育てることでよい結果につながる」。そんなところを本ブログシメとしておきます。

先日購入した、今回の内容に関連していそうな本。まだ読んでいませんので今度読んだらまた感想を書いてみようと思います。

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