千葉に住んでいた頃だいぶお世話になった病院で起こった事件を知って思ったこと。
びっくりするニュースを目にしました。千葉県柏市の「柏たなか病院で起こった看護師による患者さんの殺人容疑の事件です。院長は柏市の国立がん研究センター東病院に 6 年半在籍していましたので、よ〜く知っている病院です。よく患者さんを受け入れていただいたりもしましたし。当時東病院に在籍しておられ、現在たなか病院で勤務されている先生も何人か存じております。院長が柏にいる頃に建て替えてすごくキレイな病院だったことを覚えています。
事件の概要をみてみましょう看護師による入院患者殺害容疑。朝、クリニックを開院させる準備で待合室の TV をつけたとき、その第一報と病院名を耳にした瞬間、「あぁ、あの病院・・・」くらいにしか思いませんでした。しかしその後の報道で院長は大きな衝撃を受けました。救命を目指し、治療を行うためのを聖域である病院病棟で、あろうことか「排泄物」を凶器として患者の命を奪うという、身の毛もよだつような事件。ここまで行くと単なる "個人の不祥事" ではなく、"医療そのものに対する冒瀆(ぼうとく)" のレベルであり、もし報道内容がすべて正しければ断じて許しがたい暴挙です。
一応内容を整理しておきます。
◉事件発生日時:2024 年 1 月 30 日 午前 4:00 頃の夜間帯
◉事件の場所と被害者: 柏たなか病院(512 床)一般病棟、入院中の 70 代男性患者さん 1 名
◉犯行の手口: 看護師による、点滴の延長チューブ内への(院内で入手した)排泄物を混入・投与
◉死因:敗血症による多臓器不全(いわゆる "敗血症性ショック" と呼ばれる病態と考えられます)
事件当時、容疑者は看護責任者という指導的立場にありながら、夜間の 2 人体制という状況を悪用して犯行に及んだとされています。同僚が異変に気づいた時には、すでに患者の呼吸は浅く、苦しみに喘いでいたと言います。おそらく急激な菌血症が引き起こされ、"サイトカイン・ストーム" と呼ばれる、本来なら細菌を攻撃するために適切に制御される免疫細胞が暴走してしまう状態が体内で生じたのでしょう。多臓器不全」。相田さんが息を引き取るまでの数十時間、どれほどの激痛と、呼吸のできない恐怖に苛まれたか。その苦しみは想像を絶します。
容疑者は現場を指揮する「看護責任者」でした。部下を指導し、患者の安全を担保するはずのリーダーが、その権限を「無慈悲な殺害」のために利用した。これが、われわれが日々懸命に維持している日本の医療に対する最大の罪過です。これにより患者さんの医療への懐疑心がかき立てられますし、現場としては(こんなことはまず起こらないとわかっていても)さらなる安全管理へのコストをかけなければならず、現状でさえ厳しい病院経営に対してネガティブな影響を及ぼします。特にこの病院はつくばエクスプレス「柏たなか駅」の目の前に位置する至便性のよい施設で、500 床以上の規模を誇る地域の中核病院です。院長が柏で勤務していた頃から、この病院は緩和ケアが必要な患者さんをを受け入れてくれたり、がんセンターかかりつけの患者さんが虫垂炎など「がん以外の疾患」に急にかかったときに対応してくださる頼もしい存在でした。地域にとっては今回の事件で「安心してかかれる医療機関」の信頼度が落ちてしまったことになります。
信頼を失うのは一瞬、取り戻すのは一生、と言います。一度失われた信頼を取り戻すのは長く険しい茨の道と思いますが、現在たなか病院で一生懸命医療を実践しているスタッフの方々を今回の容疑者と「一緒くた」にして責めるのだけはどうか控えていただければと思います。
東京からほど近く、住みやすい柏・流山地域のつくばエクスプレス沿線は今後もどんどん発展していき、人口も増えていくことが予想されている街です。そんな地域の医療が地域でしっかりと完結されるために柏たなか病院の果たす役割はまだまだ大きいのではないかと愚考します。時間をかけて、病院として患者さんの信頼を取り戻せるよう、遠く神奈川から見守りたいと思います。
