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開業医がなぜだか患者さんによく聞かれる質問について改めて考えてみる。

[2026.07.10]
「先生、お子さんもやっぱりお医者さんになってもらいたいものですか?」
これは開業医が患者さんによく聞かれる質問のひとつです。こう言われると院長はいつも答えに窮してしまうのですが、たいていは「放任主義なのでふたりの自主性にまかせています」と返しています。しかしながら心のどこかで微かなモヤモヤを感じます。
 
かつて、医師家庭の子どもが再生産的に医師業を継ぐことは自然な流れ、という時代もありました。医療業界に身を置いていると「親は ◯◯ 科です」「姉は ◯◯ 県で産業医やってます」「弟は都会の駅ビルで歯科医を開業してます」とかいうひとのいかに多いことか。社会に医療者として関わることができるのは大変ありがたいことですし、特に医師業はありったけの情熱を注ぐ価値のある素晴らしい職業であると思います。
 
しかし同時に、一人の親として現代の医療を取り巻く環境、そしてあまりに過酷になった教育の現状を見つめたとき、かつてのような「医師の跡継ぎ」という物語を無邪気に信じることができなくなっているのも事実です。現場ではなかなかなくなることのない長時間労働や、患者さんや医療機関経営者から求められる過剰な要求(患者さんには「待ち時間なく診てほしい」と言われるのに経営陣からは「もっとたくさん患者さんを診なさい」といわれる矛盾など)にジレンマを感じることは当然で、Google レビューなどに記載されたよくわからない中傷やいわれのない文句、さらには患者さんやご家族からの常識の範囲を超えた要求や言動の中に含まれる、医療スタッフの人格を否定するもの(よくペイシェントハラスメントとかいわれます)に悩まされるなど、本来とは異なる社会的な複雑性が、ほかの業界とも同様、この医療業界でも増している印象があります。
 
さらに、「偏差値よかったらとりあえず医学部」のような進路指導を行う高校・予備校が増えているためなのか、はたまた現代の受験生が「医師 = 安定した職業」とみなしている結果なのか、現代の医学部受験は、もはや「かつての難関」と異なる、受験エリートたちによる熾烈な争奪戦の様相を呈しているようです。具体的な偏差値の推移(私立医学部を例とした目安)を振り返ってみると、1970 年頃であればいわゆる「日東駒専」レベルの学力があれば合格できていた(ただし学費はものすごく高かった)のが、2000 年頃には「MARCH」レベルとなり、現在は「早慶」レベルが最低ラインとなっています。かつては「10 人の受験生のうち、上位 2 番以内に入れば合格」と言われていた世界が、現在は「上位 0.5 番 (?) 以内」に入らなければ合格はできないようです。偏差値でいうところの難易度が跳ね上がっているのです。当院近隣である東海大学医学部を例にとると、志願者数約 3,500〜4,000 名に対し、正規合格者は約 80 名、最終合格者は約 130 名。最終実質倍率は 20〜25 倍前後非常に高く(25 人に 1 人しか受からない)、浪人比率も 75% 以上と、既卒生も多く挑戦する難関校となっています。背景には、院長が受験を経験した 1995 年から比較すると、私立医学部の学費値下げにより、かつて国立なら東大・京大・東工大・地方国立を目指していた層が、医学部へ流入している現状があるようです。今の医学部受験はなかなかのハードモードであり、親の時代の「なんとかなるだろう」という経験則は、もはや通用しなくなっています。
 
こうした環境の中で、当の医師たちは自分の子どもに対してどう思っているか、医師向けのウェブプラットフォームを運営する m3.com や日経メディカル等のアンケートをみてみると、現在「子どもに医師になってほしくない」と答える医師は約 2 割だそう。また、過半数の医師が子どもの進路に「介入しない(本人に任せる)」というスタンスを取っています。ポジティブな意見として「資格があり、経済的・社会的な安定感がある」というのが多く、一方でネガティブな意見としては「責任の重さ、肉体的・精神的な負担が、努力の割に合わなくなっている」が最多でした。さらにおもしろい結果も含まれており、このアンケート調査では、「1 人目の子どもが医学部へ進む割合は 40%、2 人目は 43%、とまあまあ高いものの、3 人目になると 30%にまで低下」していました。これは、親の期待が次第に分散され、より自由な選択を許容するようになる心理の表れかもしれません。
 
今の時代の医学部受験の大変さ、そして医師業に限らずこの世の近い未来思うと、あとはなにより自分の人生ですから自分で決めたほうがよい、ということで院長は特に「医師になったほうがよい」と子らにすすめることはありませんでした。ただ、ふたりとも当院で少しの時間ですがクリニック業務を手伝ってくれています。院長のはたらく姿を見ることで何かを感じてくれるなら、親としてこんなにうれしいことはありません。親がレールを敷く必要はありませんが、親が自分の職業にプライドを持って(ツラいことはあったとしても)日々の仕事をしている姿はきっと彼らの心に残ってくれるものと思います。その上で子どもが選んだ道があるとしたら、たとえそれがどんな職業であっても、心からの応援したいです。
 
ちなみにふたりとも医学部は志望しておらず、自らの道を歩んでいます。それもまたよし、です。

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