あえて大きく極端にかえることが意識変革につながることもあります。
ときどき言われるハナシだと思いますが、「大砲の狙い方」についてのウンチクを聞いたことあるでしょうか?これは日本海軍で言われていたらしいのですが、敵艦に照準を定めて大砲を撃つとき、砲撃手は最初の一発目を「よーく狙って」撃ちます。アタリマエですね。しかしここで一発目を外してしまった場合、二発目は思いっきり反対(自分からみて敵が左にいるなら敢えて右側)に向けて大砲を撃つように教育されているとのこと。こうすることで一発目と二発目で着弾した場所を確認してから自分を中心とすると「大きな扇形」ができます。すると自分がどう外したかよくわかり、三発目で的中させる可能性が上がるようです(二発でピント来ない場合は三発目を二発目と反対方向に大きく外して撃つとよいらしい)。今日はそんなハナシを。
医療ニュースについて医師向けの会員制サイトをみて気になったものをひとつ。
「大腸がん内視鏡検査、熊本市が無償化検討 実現なら全国初 50 代後半対象に 25 年度から」。大腸がん検診は多くの自治体で「便潜血検査」が一般的です。便に専用のスティックのようなものをこすって便中の血液混在を調べるもので、費用は数百円です。一方大腸内視鏡は 3 万円くらいかかってしまうのと、それなりの準備(前日と当日の食事制限と下剤服用)を要します。
そのためこういうハナシが出てくると必ず「大腸内視鏡にともなう経済的・身体的・時間的負担を考慮したうえでも本当に内視鏡までやったほうがよいのか?」という意見が出てきますが、院長は基本的に賛成です。というのは、大腸がん検診の受診率が低いからです。秦野市のホームページによると令和 4 年度でその受信状況は 7.3% で、熊本も 5.0% 程度だそうです。最近非常に増加している大腸がんの早期発見につながる検査であるにも関わらず、「そもそも検査していないひとが 90% を超える」のが現状なのです。
この状況を打破するためには「内視鏡みたいにお金がかかる検査をタダにするよ。だから是非受けてね」という思い切った政策は、大砲のたとえで言えば、「これまでと全く反対の方に砲撃する」ことに通じるのではないでしょうか。すなわち、「極端な行動によっ て受診が薦められている層の意識を大きく変える」ことに寄与するものと思うのです。
大腸がんはポリープの間に切除してしまえば決してこわい病気ではありません。内視鏡的切除(内視鏡的粘膜切除術=EMR とか 内視鏡的粘膜下層剥離術=ESD があり、日本はいずれも世界トップクラスの治療成績を誇っています。内視鏡がうまい先生が多い国なのです)では切除しきれなくても腹腔鏡やロボット手術が発達していますので比較的短期間で通常の生活に戻ります。実際に胃がんの手術を受けるとほぼ皆さん体重が落ちますが、大腸がん(特に結腸がん)の手術を受けたひとはなぜか体重が増えていく印象があります(なぜだかあまり知らないので今度消化器の先生に直接聞いてみます)。術後の食生活がかなり早期に術前と同程度に回復しているおかげなのでしょう。
わが秦野市がこういった思い切った政策を取れるかどうかはわかりませんが、高齢者だけでなく青壮年期にも罹患数が増加している大腸がん、少なくとも便潜血だけは対象の方には必ず受けて欲しいです。便潜血は 2 日分のチェックが必要ですが、「どちらか 1 回でも陽性ならなるべく内視鏡」ということを覚えておいてください。「1 回だけなら大丈夫かな・・・」と考え、医師の受診指示に従わず進行したケースを少なからず知っていますので。