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日本近代医学におけるパイオニアについての映画を鑑賞してまいりました

[2025.02.09]

菊池寛らの小説でも『風雲児たち』などのマンガでも、江戸時代中期〜後期における医学は「自由な学問の発展を阻止する頑迷固陋な漢方医」 vs. 「弾圧される未来志向で開明的な蘭方医」という二極対立で語られることがあります。実際は当時も優秀で立派な漢方医はたくさんいたことでしょうし、蘭方医のなかでも付け焼き刃の西洋医学であまり優秀でない人物もいたのだろうと推測します。

最近日本医師会が後援している映画『雪の花ーともに在りてー』を観てきました。福井藩の町医者で、天然痘(疱瘡)を予防するために一生をかけた 笠原良策(かさはらりょうさく)を主人公とする作品です。天然痘の予防についてはそのウイルスを少量のみ体内にいれる、といういわゆる現在の vaccination(ワクチン接種)が江戸時代に行われる様子が描かれており、日頃ワクチンと関わっているわれわれクリニックスタッフにとってその歴史に関心を持つのに充分な内容となっていました。

特に当時はワクチンのパッケージなどありませんので、天然痘患者さの「かさぶた」(痘苗と呼ばれる)ををヒトからヒトに植え継ぐという方法で広めていっていました。京都で種痘(痘苗を当時天然痘の最大の被害者であった子どもに接種すること)したのち、その子どもたちを連れて旧暦の 11 月 23 日、吹雪のなか峠を越えて福井藩までなんとか辿り着く様子を描いたシーンは先人の味わった艱難辛苦がよくわかり、大変勉強になりました。

現在、多くの感染症について様々なワクチンが当たり前に接種できる環境が整っています。有名な BCG をはじめとし、MR(麻しん風しん混合)・水痘・おたふくかぜ・日本脳炎・ロタウイルス・ジフテリア・百日咳など。毎年多くの方が任意で接種しているインフルエンザや 1-2 年前までの新型コロナウイルス感染症に対するワクチンも、笠原良策 のような優れた町医者(映画後半で福井藩藩主の松平春嶽より "御目見医師" になるよう声がかかるというエピソードがあります。この御目見医師、藩医のなかで多くを占める武士の身分を持つ医師ではない町医者のなかで優秀な医業を実践していると考えられた者が任命されるお役目です)など、多くの(開業医としての)大先輩たちのおかげで施行できていることを常にアタマの片隅においておきたいと思います。

・・・それにしてもこのストーリーの原作小説を書いた 吉村昭 先生は本当に面白い歴史小説を多く生み出してくれました。まだ映像化されていない作品がたくさんありますので、是非また映画化など検討してほしいと一ファンとして期待しております。国際化・多様性の時代ですので、たとえば『ふぉん・しいほるとの娘』などいかがでしょう。

 

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