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院長が「これってよくないよなぁ」と思う市販薬

[2024.04.17]

昨日に続き紅麹製品健康被害に少し関連したハナシをします。

前立腺肥大症という言葉はこの高齢社会でかなり一般的になりました。一般泌尿器科外来で最も多い疾患のひとつで、泌尿器科学会によると「前立腺肥大症(BPH)は前立腺の上皮や間質の過形成が起こり、前立腺の腫大を来た し、膀胱出口部閉塞とそれに伴う下部尿路症状を来すもの」とあります。要するに「前立腺が大きくなり尿の出口部分が狭くなる」という病態です。

前立腺肥大症の歴史をみてみると、大きな治療の進歩として ”アルファブロッカー” と呼ばれる治療薬の開発・応用があります。「アルファ」というのは交感神経系の受容体と呼ばれる、神経伝達物質がくっつく「鍵穴」 の種類なのですが、ここをおさえる(ブロック)すると排尿がしやすくなることは 1948 年の論文ですでに記載されていました。

しかしここをブロックしてしまうと血圧が低下してしまうことも同時に分かっており、高齢である前立腺肥大症患者さんの治療薬として使うには安全性に欠けるという大きな問題点がありました。

そこで選択的アルファブロッカーと呼ばれる、排尿に関連する受容体のみを狙ってブロックする、という創薬が目標とされ、日本では山之内製薬(現在は藤沢薬品工業と合併してアステラス製薬)が開発し、販売に至りました。1993 年のことです。

これは「前立腺肥大症の治療薬であるが、肥大した前立腺を縮小させないで治療効果を得る」という点で画期的な治療薬でした。それまで「前立腺肥大症なのだから前立腺を小さくすればよい」という方向で進んでいた学会(前立腺を小さくする手術・男性ホルモンをブロックして前立腺を縮小させる、など)の治療方向性を大きくチェンジさせるきっかけとなったからです。

ほかにも、この薬はもともと降圧剤として探索・開発されていた化合物を別の効能にシフトチェンジして生まれた薬である、などの面白いハナシがあります。要するに薬理学・生理学・泌尿器科学・循環器内科学など様々なバックグラウンドを持ったひとたちが苦労して結果による創薬ということです。

商品名はハルナールで、その後同様の薬効を有する治療薬としてフリバス(旭化成ファーマ)、ユリーフ(キッセイ薬品工業・第一三共ヘルスケア)などが登場し、前立腺肥大症診療には大きな幅ができました。現在もこれらは前立腺肥大症における主戦力の薬であり、こういった選択肢が増えることは患者さんにとって非常によいことです。

そんななか、数年前院長が薬局を歩いているとビックリするような名前の市販薬を見つけてしまいました。小林製薬の「ユリナール」です。まるで上述の「ユリーフ」と「ハルナール」を足し合わせたようなネーミングで、少し前立腺肥大症をかじったひとなら「これは効きそう♡」と思ってしまうことうけあいです。

ところがこの「ユリナール」、「清心蓮子飲(ツムラだと 111 番)」と全く生薬構成が同じ漢方薬なのです。排尿障害が専門である院長もこれまで何度も清心蓮子飲は使用しましたが、印象としては「胃腸があまり強くない少し仕事や家事で忙しい女性の頻尿症状に使う漢方方剤」と思っています。一方、ユリナールの主な効能は「夜間頻尿」であまりにもざっくりとしすぎています。おそらく、「いわゆる前立腺肥大症」の患者さんがユリナールを使用しても、私見ですが満足の行く結果はなかなか得られないと予想します。にも関わらず保険の効かない市販薬は非常に高価です。

市販薬は手軽に購入・使用できるのがいいところですが、それにつけこむような商売の仕方はあまり感心できません。ヘルスケアに関わる企業として今後小林製薬をはじめ、市販薬にかかわる企業の皆様にはぜひとも「会社の利潤」と同時に「使用者の健康」について考えて頂ければと思います。

・・・なんだか説教みたいになってしまいました。いつも穏やかな院長ですが、こんな日もあります。

明日は少し楽しいハナシをしようと思います。

写真は 2001 年、院長がちょうど研修医になったときに山之内製薬さんから頂いた「ハルナール 8 周年記念ペン立て」です。モノ持ちがよい院長はいまだに自室で使っています。昔はこういうちょっとしたお薬関連のグッズがたくさんありました。現在は薬品会社から医師への物品提供はいろいろと問題があるのですっかりなくなってしまいました。これはよいことだと思います(当時は会社対抗おみやげ合戦みたいになっていたので)。

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