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15 年以上前に ◯◯ 剤の使用を減らす重要性を教えてくれた教授のハナシ

[2025.02.06]

「かぜを引いた」とは通常の会話でもよく出るフレーズです。しかしながら "かぜ" の患者さんを 1 回診ただけで「かぜで間違いありません!」と断言できる医師は基本的にいません。というのは、たとえば発熱外来で来られた患者さんを初期の時点で "かぜ" とその他の疾患、例えばインフルエンザや新型コロナウイルス感染症などと正確に鑑別するのは困難(というより無理)だからです。なかには腎盂腎炎(じんうじんえん)などほかの部位の感染症もありますし、よくよく聞いたら膠原病(こうげんびょう)と呼ばれるリウマチなどの疾患だったりもしますし、糖尿病などの感染しやすくなる病気が隠れていることもあります。ずいぶん前ですが発熱で初診された患者さんに「飲んでいる薬はありませんか?」と聞いたら「便秘薬と胃薬しか飲んでいない」と言われたもののよくよく聞くと「糖尿病でインスリンを自己注射している。『飲んでいる薬』ではないので特に伝えなかった」と言われて聞き方って大事だな、と思ったこともありました。

そのためわれわれクリニックの医師は発熱など感染症を疑う患者さんが来院されると「なるべく重症の病気に対しても備えておきたい」みたいな考えが浮かんでしまうことがあります。そのためか、2005 年くらいまではいわゆる「かぜ症状」で医療機関にかかると当たり前のように抗菌剤を処方される、ということが珍しくありませんでした。

これは数多くのデータから間違いないことですが、基本的にウイルスの感染症であることが多い「かぜ症状」の初期に抗菌剤は不要です。当院でも処方することは皆無です(採血やレントゲン、エコーなどでウイルスではなく細菌性の感染症が疑われる場合はもちろん投与を検討します)。このことは厚生労働省・日本医師会も AMR(AntiMicrobial Resistance = 薬剤耐性 と訳されることが多い)対策アクションプランの非常に重要な方策として「抗菌剤の使用を必要最小限にする」という働きかけを 2016 年 4 月から開始、すでに 9 年目となっています。

昨日紹介した院長の所属する医局の前のボス、木原 和徳 名誉教授は 2000 年初頭から「抗菌剤はなるべく使わないように!」とわれわれを指導していました。2001 年院長が医師になったとき、全身麻酔の手術をするとたいてい術中・術直後点滴で計 4-6 回、術後は内服で 1 週間くらい抗菌剤を当たり前のように投与していました。しかし院長の専門である泌尿器科で腎や副腎を摘除する手術はいわゆる「清潔手術」と呼ばれるタイプの手技で、術野が便や尿で汚染されることがありません。そういった手術では原則として抗菌剤はしっかりとした術野の衛生状態と手術創の洗浄を行えば 1 回で充分なことがほとんどです。2016 年になってようやく厚生労働省などが開始した AMR の予防について木原先生は随分前から取り組んでいたことに今更ながら素晴らしいと感じます。おかげで自分も抗菌剤をかなり少なく使用するほうの医師になることができました。

最後に大学同期の田所先生が東京医科歯科大学泌尿器科病棟における MRSA(メチシリン耐性ブドウ球菌。耐性菌として有名な細菌)の発生率を(抗菌剤最小限使用・手術創最小化・適切な衛生状態維持などにより)経時的に低下できたことを示す 2013 年論文のシェーマを載せてこのブログを終わりたいと思います。残念ながら院長はこの論文の共著者に入っていませんが、価値あるデータだと思います。2013 年 BMC Urology というジャーナルです。

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