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やはりもう少し総合診療医やプライマリ・ケア医を増やすか、高い専門性を有する医師の窓口を少し制限するなど、行政による診療科の調整は行われてもよいような気がします。

[2026.07.09]
「どうも疲れが取れない」「急にイライラしてしまうけれど、これって更年期?」 そんな心身の不調に、人知れず悩んでいる方は少なくありません。かつて更年期障害は女性特有の悩みと思われがちでしたが、最近では、男女共通の「人生の転換期」である、とされています。いわゆる「男性更年期障害」で、近頃は雑誌やテレビ、ネットニュースなどでも特集が組まれることが多いために認知度が上がってきた疾患概念です。この男性更年期障害、最もメジャーな治療は「足りなくなっている男性ホルモン(テストステロン)を補充する」という、極めて単純なもので、当院を含めて泌尿器科で広く行われております。
 
ただ、先月シカゴで開催された米国内分泌学会(ENDO 2026)で「あまりにも過剰にこの治療が行われているのではないか」と警鐘を鳴らす報告(Papaleontiou M, Testosterone therapy in men may be overprescribed, inconsistent with clinical guidelines)がミシガン大学のチームからなされました。その報告では「テストステロン補充療法には事前にチェックすべき項目があるが、そのチェックが当該施設(ミシガン大学)では 12% しかされていなかった」というものです。特にテストステロン補充療法では「対象者に前立腺がんがないこと」を確認しておく必要があり、 (そのために当院でも原則としてその腫瘍マーカー(PSA)を必ず確認するようにしているのですが)、これが省略されているケースも少なからずあり、前立腺がんと既に診断されているケースも 4% に認められたそうです。
 
米国をはじめ、欧米ではこういった「ちょっとした心身の不調」について対応するのは専門医ではなく「総合診療医(プライマリ・ケア医)」であり、今回の報告でもテストステロン製剤を処方した医師の内訳は、プライマリケア医が 45%、泌尿器科医が 35.5%、内分泌科医が 18%、その他の診療科医が 1.5% だったそう。現在院長は「泌尿器科専門医であり、地域医療ではいろいろな病態を診る総合診療医」としてクリニックで診療を行っており、こういった記事を読むと泌尿器科専門医・総合診療医双方の気持ちがわかるような気がしております。

男性更年期障害は泌尿器科の診療領域ですが、症状は非常にありふれたものが多く、いわゆる「かかりつけ医」・「総合診療医」・「プライマリ・ケア医」が担っていく必要がある症候群です。「疲れが取れない」「やる気が出ない」「眠りが浅い」「怒りっぽくなった」「性的な欲求や行動への意志が低下した」。こうした訴えは診療科に関わらず、患者さんからしばしば聞かれる訴えです。こういった訴えを聞くとたしかにテストステロンの低下によるもの、というのは推論すべき鑑別診断に挙がります。しかし同時に、睡眠時無呼吸症候群、うつ状態、甲状腺機能異常、貧血、糖尿病、肝機能障害、慢性腎臓病、過労、仕事上のストレス、家庭内の問題、薬剤の影響など、実にさまざまな原因が考えられます。

つまり、男性更年期障害は「テストステロンが低そうだから注射しておきましょう」だけの診療ではありません。患者さんの生活背景を聞き、身体の状態を確認し、必要な血液検査を行い、そのうえで「本当に男性ホルモン補充療法が必要か」を判断する必要があります。このあたりが、今回の米国からの報告で問題提起された部分なのだと思います。

プライマリ・ケア医は、患者さんの最初の相談相手です。眠れない、疲れる、気分が落ち込む、夫婦生活の悩みがある、仕事がつらい。こうした相談は、いきなり大学病院の専門外来に行くよりも、まず身近なかかりつけ医に話すことのほうが多いでしょう。その意味で、プライマリ・ケア医が男性更年期障害を診ること自体は、まったく自然なことです。むしろ、こうした不調を「年のせいですね」で終わらせず、きちんと医学的に拾い上げる役割は非常に大切です。一方で、プライマリ・ケア医は広い範囲を診るがゆえに、どうしても専門医療の細かい部分までは追いきれないことがあります。泌尿器科で日常的に扱っている前立腺がん、PSA、排尿障害、男性機能、ホルモン補充療法の副作用といった領域について、専門医と同じ深さで判断するのは簡単ではありません。これは能力の問題というより、診療構造の問題です。毎日、高血圧も糖尿病も発熱も腹痛もメンタル不調も診ている医師が、すべての専門領域を同じ精度で扱うことには、当然ながら限界があります。

一方で専門医にも考えるべき点があります。専門医は、自分の領域を深く掘り下げているがゆえに、時にその診療を「特別なもの」として捉えすぎることがあります。「これは専門医でなければ診られない」「この領域は簡単に手を出してはいけない」と考えすぎてしまうことがあるのです。ただ、症状やさまざま "困りごと" について、その最初の受け皿となるプライマリ・ケア医を、専門医が上から目線で批判するだけでは、医療はよくなりません。大切なのは、役割分担でしょう。プライマリ・ケア医は、目の前にいる患者さんの声を受け止め、必要な検査や初期対応を行う。専門医は、その診療が大きな方向性を誤らないように、わかりやすいガイドラインや診療の手引きを整備する。そして、危険なサインがあるとき、判断に迷うとき、治療効果が乏しいときには、スムーズに専門医へつなぐ。これが本来あるべき姿ではないでしょうか。

われわれ医療者に求められるのは、患者さんの症状をしっかりと受け止めることと同時に、治療の安全性を軽く扱わないことの両立です。プライマリ・ケア医が患者さんの入口をしっかり支え、専門医がその後ろから安全な道筋を示す。その協力関係があってこそ、男性更年期障害に限らずすべての診療は、患者・医療者・社会の三方にとって本当に役立つものになることでしょう。・・・この両立が極めて難しいことは院長もよくわかっているのですが、目指すべきゴールなので、一開業医ながら大きなことを語らせていただきました。またこういった場面では自分のような「泌尿器科医+総合医」が汗をかくべきである、ということも付記しておきます。ガンバります。

 

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