お酒の神様バッカスも豊穣の神でありながら残酷な面も持つなど二面性を有しているのでアルコールにはプラスもマイナスもあることを知っておきましょう。
院長が大学に入った 90 年代はまだまだ「後輩が先輩にお酒を飲まされる」という風潮が色濃く残っていました。院長はこれが本当に苦手でした。なぜならあまりお酒が好きではなかったからです。飲むとカオは赤くなり、アタマは痛くなり吐き気が出現(ときどき嘔吐)、そしてほうぼうの体で帰宅して布団に潜り込むも、眠りは浅く夜中に起きたりして翌日はカラダがダルくなる。これらはお酒による「変化」というより「副作用(症状)」という感じでした。おそらく ALDH2(ミトコンドリア型アルデヒド脱水素酵素)の活性が弱く、いわゆる「下戸体質」なのだと思います。
しかし、いわゆる「飲みケーション」にも効用があるという医学論文もあります。ひとつ見つけた論文は「孤立リスクの軽減」「飲み会による社会的ネットワークの維持・強化により同僚や友人との "心理的安全性の向上" につながる」 (Holt-Lunstad, PLOS Med 2010)というもの。ただこれらはあくまでもアルコールそのものではなくアルコールがある場での「会話と共感」に健康効果がある、ということを示している、というのがポイントです。
ではアルコールそのものの効果でわれわれの心身にプラスに作用するものはないのかというと、適度な飲酒による GABA(γ-アミノ酪酸)作動系の活性化 ⇒ リラックス効果などが報告されていますが、院長が調べた限り、基本的にプラスよりマイナス(わずかでも適切な摂取量を超えてしまうとインスリン感受性の低下や LDL(いわゆる悪玉コレステロール)の上昇や睡眠の質低下が起こってしまうので、結構 "適度な飲酒" というのは難しい)のほうが大きく、アルコールは「飲まないに超したことはない」化学物質と言っても良さそう、というのが現在の院長の認識です。
では、なぜアルコールはタバコと違って CM も流され(箱根駅伝とか観てるとものすごくある飲料メーカーのちょっといい感じなコマーシャルが出てきますよね)、コンビニでもすぐに手に取れるところに売られ、そもそも大麻のように法律で禁止されていないのか。これには実は明確な医学的な見地に基づく解答はありません。
「太古の昔から飲まれていた」
「非常に広く普及している」
「いきなりかつての米国における禁酒法のように無理やり禁じるとかつての米国ギャングであるアル・カポネのように密造酒で儲けようというひとが現れかねない」
などのいろいろな理由の総和により、一定のルール(年齢制限、飲酒後の運転や就業の禁止、酒税法による酒類販売業免許による統制など)のもと、アルコール飲料が販売されております。この「明確な医学的な見地がない」ということが少し問題で、そのため、「大麻合法化運動」をしているひとたちから「大麻はアルコールよりよっぽど安全だ!」といわれると医学的に説き伏せることが難しいのです。
法律は最優先されるべきなので現時点で自由化することはとてもできませんが、仮に医師として化学物質の特徴だけで判断するなら、大麻を医療現場で使おう、とか、規制の緩い海外の地域と同じようにしたい、という意見はわからないことはありません。しかし、先程述べたように、アルコールも「これまの歴史や流れでその使用のルールが決まってきた、という社会の流れみたいなところに思いを馳せて醸造された現在の "空気" ではすぐに法律を変えることは難しい」と思います。このあたりは依存症を多く診察している精神科の先生方が中心となり、今後の方針を議論しながら決めていく必要があるでしょう。
さて、そんな飲み会ですが、一昨日「2001 年卒泌尿器科医の愉快な仲間たち」の会に参加してきました。院長はずっとジンジャーエールを飲んでいたのですが、気づくと 2 時間で 4 杯も飲んでいたので、ビールを 1-2 杯飲むよりよっぽどカラダに悪いのではないかと心配になりつつも楽しい夜でした。
