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ビジネスの有名な戦略から当院のこれまでと今後のあり方を少し考えてみました。

[2025.11.01]

以前、医師は警察官や裁判官などと同じで「必要なとき、求められたときに依頼されてその出番が来る、それ以外は静かに待っているべき」というハナシをしました。理想的にはそうなのです。そうなのですが、現在の保険診療システムですとどうしても「たくさん患者さんを診る」、薄利多売みたいなスタイルで診療しないとなかなか一緒に働いてくれるスタッフへの給料が出ません。ということで、これは院長としてはやや不本意なことなのですが、「クリニックを潰さないために」と割り切っていろいろと経営の本を読んだりしています。ただ、そういう本を読んでいると、「なるほど」と思う内容と出会うことも多数あり、そんな内容のひとつを紹介します。日々医療より厳しいビジネスの世界に身をおいているひとからみるとものすご〜く「甘いなぁ、こいつ」と思われる内容だと思いますが、どうかご容赦ください。

今回紹介したいのは "ランチェスター戦略" です。これはもともと軍事戦略から発展し、ビジネスにおける競争に勝つための経営・マーケティング戦略です。この戦略では、まず企業を市場の "強者(その分野 1 位の企業、特に全体の 26.1% 以上のシェアを持っている企業)" と "弱者(2 位以下の企業)" にわけます。そしてそれぞれが有利に戦うための戦略を立てることで効率的に相手と戦うようにする戦略です。

ごくごく簡単に述べると

◯ 強者の戦略:市場シェアをすでに握っている側が「面攻撃(広域戦)」でシェアを維持・拡大するやり方。大量の資金投入・広告展開が得意。

◯ 弱者の戦略:限られた資源の中で「差別化」を仕掛け、専門性で生き残るやり方。小規模事業者がとるべき戦い方。

そもそも、シェアの 26.1% を占めている企業など日本にいくらほどあるでしょうか。たとえばスマホの Apple。Apple の iPhone は 60% 近いシェアを誇っていますので強者です。トヨタも強者でしょう。しかし、たとえばコンビニのセブンイレブンは 34% なので強者ですが、ファミリーマートは 20% なので今回の定義によると弱者になってしまいます。あんなに大きな会社なのに。となると、われわれのような地方の一クリニックを含めて日本の会社の大多数、というよりもほぼすべてがどう考えても "弱者" であり、強者の戦い方を真似をせず、弱者に向いた戦い方をしないといけません。

それが上記のに書いた「局地戦」で、強者よりも自分の戦い方を "差別化" を取り入れないといけません。その差別化には下記のような 5 つのポイントがあります。

(1) 局地戦戦略: エリアを絞れ!これはすなわちクリニックなら最初から秦野にあって、茅ヶ崎にあって、横浜にあって・・・みたいな感じにするのではなく、まずは秦野だけに全体力を集中せよ、ということです。この戦略のいいところは人員もおカネもその地域に集中して投入できるので、クリニックなら導線、待ち時間、駐車場台数など、ひとつひとつについて丁寧に分析・評価できることです。あと、クリニックなら医療機関にとって極めて重要な "クチコミ" を広げやすいということもあるでしょう。神奈川県で勝負するのではなく、まずは秦野市の北地区でしっかり勝負したいと思います。

(2)  一騎打ち戦略: たとえば当院のような小さなクリニックが大きな医療グループ、たとえば徳洲会と全面的に戦ったら余裕で負けます。おそらく 2 秒くらいでノックアウトでしょう。しかし、うちのクリニックと「徳洲会グループの ◯◯ クリニック」との対決ならば勝てる可能性も十分出てきます。1  対 1 にするのが大事です。ランチェスター戦略ではその企業・団体の「戦闘力」は「スタッフそれぞれの戦闘力 x 人数」で決まるとされております。なので、(1) とつながるのですが、秦野北クリニックが強者と戦うときは「ひとつのクリニックと一騎打ちになるように」戦いたいと思っております。

(3)  接近戦: これは競争相手と近づくのではなく、企業ならお客さん、われわれクリニックなら患者さんと "お近づきになる" ということです。皆様は大きな病院で「本日は採血 と CT ですので 1 階の △ 番窓口で血液を採取したあと、2 階の ◯ 番窓口に行ってください。それぞれの窓口でこのファイルをこの順番で出したあと、必ず番号札をもらってきてその札をこのボックスにいれてください」みたいな "よくわからない院内ルール" で動かされた経験があるでしょうか。大きな施設ですとどうしてもひとりひとりの患者さんに寄り添う、ということは難しくなります。一方当院のような小さなクリニックでは、移動が難しい患者さんならすぐ車椅子をスタッフが用意しますし、聴覚・視覚などに障がいをお持ちの方・日本語がうまく話せない外国の方々も全力でサポートします。このように患者さんに親しみを感じていただく程度にしっかりと "接近" することで患者さんの満足度を向上させることができます。

(4) 一点突破戦略: 「この部分では大手に負けない!」ということを大事にすること。例えばレストランなら「ウチはシチューだけはどんな店にも負けないほど美味しいぞ!」とか、電気屋さんなら「どの業種のエアコンでも修理はまかせて!」とか。ちなみにウチのクリニックは「院長の "説明のわかりやすさ" だけは他院に負けない!」と本気で思っております。院長は子どもの頃から「理解するまでの時間は長い方だが、一度わかると誰よりもその理解を他のひとに伝えやすくできる能力は高い」ほうだと自負してきました。あと、大学時代に 10 人以上教えてだいぶ教え子と保護者の方から気に入られることがえきた家庭教師バイトも今になって役立っていると感じています。

(5) 陽動作戦: 強者の注意が払われない、隙がある場所に攻め込む戦略です。 医療でいうと、「大きな施設のドクターが少しやりたがらないような(少し手間のかかる)処置をありがたく当院でやらせていただく」、みたいなことでしょうか。泌尿器科でいうと、治療が派手な がん の治療ではなく、排尿障害の治療や、カテーテルの交換、間欠的自己導尿などがこれにあたるかもしれません。

いかがでしょうか。こんなことを心の片隅で考えつつも、弱者は「誠実」であるべきで、「誠実作戦: 常に患者さんに誠実であること」が最も大切な戦略でないかと思っております。ネットで "ランチェスター戦略" を検索しても、この「誠実作戦」というのはまず出てきませんが、医療人である以上、このことは誰よりもトップでいたいと思いますし、それを続けていけば、いつか「弱者だけど少しだけ強い」みたいな存在になれる日が来るかもなぁ、とぼんやり考えています。

でも、基本やっぱりあまり医者がビジネス語らないほうがいいとは思うのです。最後に言い訳みたいですが。

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