メニュー

院長はフレンドリーなほうだと自負していますが、ときどき「変に恨まれて襲われたらどうしよう」と思う事件が最近ありました。

[2025.05.22]

クリニックで診療をしていると少しだけ不安になることがあります。それは、「スタッフの安全確保」。というのも今月 16 日、横浜市内のクリニックで、院長が突然訪問してきた男性に襲われ負傷する、という事件の報道を知ったからです。

また、少し前ですが 2021 年に大阪・北区の心療内科で起きた放火事件。心の病に悩む患者が、自ら通っていたクリニックに火を放ち、院長を含む 26 名が犠牲となりました。この 26 名には院長をはじめとするクリニックスタッフはもちろん、当時通院していた患者さんも含まれています。この事件は容疑者も死亡しているため不起訴となり、裁判もされないまま幕引きとされてしまいました。26 名の方それぞれのご遺族の心中はいかばかりかと思います。

これらはどこか遠い話に思えるかもしれませんが、「どこの街にも起こり得る現実」です。なぜなら、クリニックはまさに街中に開かれた医療の窓口であり、誰もが予約なしにふらっと訪れることができる場所だからです。本稿では、クリニック経営者の立場から、「無床診療所(ほとんどが小さな建物で診療がなされています)における安全確保」について、現場のリアルを交えながら考えてみます。

病院と違い、クリニックは駅前の雑居ビルや商店街の一角などに多く存在します。また、当院のような都市部ではないところは比較的視認性の高い場所にあります。患者さんは「体調が悪い」「検査を受けたい」「薬がほしい」といった理由で、気軽にクリニックを訪れます。そして多くの医療者は、そうした患者さんに “開かれた姿勢” で接することを心がけています。

しかし、この「開かれている」という特性が、時に大きなリスクにつながることがあります。

・精神的に不安定な患者が突然激高する
・(クリニックにはそれぞれ特有の "マイルール" みたいなものが存在しますが、ときどきそういった)ルールを無視してスタッフとトラブルになる
・医療はうまくいくことばかりではありません。「早く診断を受けられなかった」「最新ではない治療をされた」といった思い込み(もちろん、ごくごくまれには本当にこちらが完全にミスをするときも絶対ないとは言えませんが・・・相当低いと思っていただいて大丈夫です)による逆恨みによる暴力、また逆にスタッフを好きになってしまったうえでのストーカー行為

これらは、どのクリニックでは起こり得る事例です。そして実際に、全国のクリニックで医師やスタッフが暴言・暴力の被害に遭っているという調査結果もあります(厚生労働省や医師会による報告があります)。

大阪の事件では残念ながら多くの犠牲者が出てしまいましたので、これ以降は全国のクリニックでは以下のような対策が推奨されました。

  • 防犯カメラの設置

  • 入り口のオートロック化

  • 非常通報ボタンの設置

  • 職員の防犯訓練や避難訓練の実施

  • 診察時は常に複数人体制で患者さんと対面する

  • 危険行動の前兆がある患者の受診制限

もちろん、こうした対策は理にかなっていますが、これらをきちんと行っても「完全な安全」を保証できるわけではありません。われわれ医療者は患者さんの診察時に "触れる" のがアタリマエの行為であり、患者さんとの距離が極めて近くなるからです。患者さんとの信頼関係の構築という医療本来の役割と、安全確保との間で、現場は常にジレンマを抱えています。

「医療者は弱者である患者に寄り添って当然」「プロなんだから感情を持ち込むな」「多少のことは大目に見ろ」――そんな風に言われることがありますが、われわれも一人の人間です。暴力や暴言、または身に危険がおよぶような行為にさらされれば当然心がすり減ります。なんでも "ハラスメント認定" する現代に辟易することもありますが、明らかに "ペイハラ(患者(ペイシェント)によるハラスメントの略)" と思われる行為には、院長として毅然とした態度で接する、ということをここに明記しておきます。

暴力や犯罪を前提に、患者さん全員を疑うような医療は決して健全とはいえません。しかし、過去の事件から学ぶことを怠れば、また同じ悲劇を繰り返してしまいます。「信頼」を土台にした診療を大切にしながら、「安全」も同時に確保する――。これは、これからの時代の医療機関に課せられた責務だと思います。

もしあなたのかかりつけクリニックで、防犯カメラが設置されていたり、診察室のドアが電子ロックだったりしても、それは「あなたを疑っているから」ではありません。それは、そこで働くスタッフの命を守り、同時に地域の医療を守るための仕組みですので安心してください。

今後、行政・医師会・ビル管理者などとの連携もさらに重要になるでしょう。「医療従事者の安全」は、一部の人たちだけで考える問題ではありません。私たちみんなで考え、支えていくべき「社会全体の課題」だと思います。

多くの海外からの視察者が日本の医療制度を見学してから言うのが「日本の医療は素晴らしい」。この医療を是非みんなで守っていきましょう!

イラストは「心配そうに診察室を見守る院長」です。医療を、常に誰かが監視していないとできないような環境にはしたくないですね。

HOME

最新の記事

院長が最近テレビや YouTube を見ているときに "ドキッ!" とすることが多い ◯◯ に関するニュースについて。
本日漢方の講演会で登壇してまいりました。
院長がずいぶん昔ですが住んでいた場所で住宅建設中に大きな事故がありました。
若者の献血離れと人口減少社会におけるこれからの対策を自分なりに考えてみました。
松本清張先生の作品を久しぶりに読んで "プロフェッショナル" と言われる職業の看板を背負っていることにあらためて背筋を伸ばしたくなった日。
医学が大きく大きく進歩するのに "ひとつの偶然" が貢献することがあるので基礎的な実験やいろいろな研究の裾野は広くすることが人類のためになるはずです。
男性にもある更年期障害ですが、それに関連して初診で来られる方がときどき内服しているおくすりについてつれづれに語ってみます。
当院がある神奈川県の医療系大学で行われている医療従事者向けの講座をきっかけに代替医療・統合医療について私見を述べてみます。
院長はフレンドリーなほうだと自負していますが、ときどき「変に恨まれて襲われたらどうしよう」と思う事件が最近ありました。
異臭は最も原始的な感覚が教えてくれる危険信号ですので感じたらすぐに警戒しましょう。

ブログカレンダー

2025年5月
« 4月    
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031  
▲ ページのトップに戻る

Close

HOME