数多くある項目のひとつであっても、検査にはそれぞれ特徴や結果の解釈がありますのでなにか検査を受けたら必ずわれわれ医師に確認してください。
昨日便潜血検査についてお話しました。今回はこの検査について少し詳しく述べてみましょう。
便潜血を検出する方法として「化学法」と「免疫法」の 2 つがあります。そして最近はほとんどの日本の施設で後者(免疫法)が採用されています。というのは、化学法ですと上部消化管、すなわち食道とか胃の出血や少しナマに近い(レアとかの)お肉をたくさん食べた時なども陽性として検出してしまう(偽陽性)ことがある一方、免疫法ではヒトヘモグロビンに対する抗体を用いて便中の出血を検出するので、そういった上部消化管や食事の影響をほとんど受けません。
免疫法では一般的には「便 1 g に対して 20-50 μg の潜血があった場合に陽性とする」という基準になっており、だいたいドックなどで 100 名の検査をうけると 3-8 名くらいが陽性になるとされています。潜血の基準に "20-50 μg" というふうに少し幅があるのは値によってカットオフ値(基準値)をかえることで「大腸内視鏡などの(体に少し負担がかかる)検査がどの程度必要か」の基準を調節することができるからです(たとえば福井県では 44 μg ですが神奈川県では 24 μg だったりする。この辺は都道府県ごとに裁量が認められています)。
大事なことは(この検査を受ける、という時点で必ず 2 日分の便潜血検査キットを渡されるので)「必ず 2 日分の検査を行い、どちらか一方または双方が陽性ならば大腸内視鏡を積極的に検討する、ということです。以前院長が勤務医時代に「検診を受けたら便潜血が 1 日だけ陽性になったからもう一度 2 日分検査してほしい。今度 2 日連続で陰性だったら安心するから」とおっしゃってこられた患者さんがいましたが、その際は「1 回でも陽性だったら大腸内視鏡しっかり受けたほうがよいですよ」と言って消化器科を紹介して早期がんが見つかりました。もちろん全例にそういったことが起こるわけではありませんが、「1 回でもひっかかったらしっかり検査をうける」ということを忘れないようにしましょう。2013 年と少し古い論文ですが、New England Journal of Medicine というものすごく格式がある雑誌に「年 1 回の便潜血とその結果に応じた大腸内視鏡をすることで大腸がんによる死亡率が 30% 低下する」という報告がありますので。
ここまでわかっている便潜血の有用性なのですが、少しだけ残念なデータがあります。それは「便潜血陽性で大腸内視鏡を受けるひとの割合が欧米 80-90% なのに対して日本では 60-70%」というものです。これはいろいろな理由があり、「日本は伝統的に大腸がんより胃がんのほうがメジャーだったので "内視鏡と言ったら胃" で大腸内視鏡の重要性が十分伝わっていない」とか「大腸内視鏡は前処置(下剤の内服など)や当日の検査(肛門からカメラを入れて観察される)が大変なので患者さんがおっくうに感じてしまう」などが言われています。しかしながら、大腸がんはリンパ節転移があってもステージ 2 までなら 5 年生存率は 85% と、早期発見できればそれほど過剰に怖れる悪性腫瘍ではありません。是非検診の便潜血を有効に活用していただきたいと思います。
最後に、「便潜血陽性を踏まえて内視鏡を受けて病変を切除してもポリープが多くてがんはそれほど多くない(報告によっては 5% 以下)から検査を受けなくてもよいのでは?」と聞かれることがあります。確かにそうです。しかしながら、「腺腫性ポリープなどの前がん病変が見つかることは 50% 程度含まれる」、というデータがあります。ですから「悪性じゃなかったから受けなければよかった!」ではなく「現在良性であっても結果として悪性腫瘍になってしまう "タネ" を摘み取ることができた」ということでポジティブにとらえるべきと思います。
われわれのようなかかりつけ医ができることはまずは便潜血検査について説明し、心配な方には薦めること。現在院内待合室には疾患についての説明などを流すための院長自作の動画が流れていますが、そのなかにこの便潜血のハナシを早速来週から組み込むつもりです。
大腸がんはこれからもどんどん増加していくと予測されているがん種ですので・・・。