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最近やたら「全量処方!」とか謳っている市販薬が出てきたということは結局数年後には ◯◯ 類似薬は保険から外されるんだろうな・・・。

[2025.08.06]

維新の会をはじめ、いくつかの政党・政治家が「社会保険料の負担軽減の一環としての OTC 類似薬の保険適用除外」についてその有効性・実現性を論じている場面があります。最近、診察室でも患者さんに「ネットで市販薬と同じ薬は、もう医療機関で出せなくなるって聞いたんだけど本当?」みたいな質問を何回かいただきました。このことについて現場の医師としての院長の思うところを述べてみましょう。

OTC とは "Over The Counter" の略で、「薬局やドラッグストアなどで処方箋なしで購入できる医薬品」のことです。「OTC 類似薬の保険適用除外」はつまり、「湿布薬や風邪薬、ビタミン剤(アリナミンとか)、抗ヒスタミン薬(花粉症薬)、(政治家によっては)漢方薬、薬局で買える薬は保険適用から外そう」という政策案。これは国の財政にとっては “助かる” 話です。医療機関で処方される薬は患者さんが 1〜3 割負担、つまり実際に 7〜9 割、すなわち半分以上の費用を負担しているのは保険者(健保組合など)ですから、同じ、または類似の薬なら患者さんが薬局で 10 割払ってくれれば国全体の負担は大きく減ります。ですから医療政策の専門家たちの多くも賛成しているようです。ただ、院長は以下のような理由でもう少し議論が必要ではないかと考えています。

  1. ひとつは、現在のかたちでこの政策が通ると OTC 類似薬は医療機関で処方できなくなります。そうなると現在診療でアタリマエに行っている「多分軽い感冒だと思うから漢方を含む OTC 類似薬を出しておいてから数日後に再診として状態を確認」という方針が非常に取りづらくなります。このとき、医師は「薬局で ◯◯ と△△、あとは解熱薬として ◇◇ を受け取ってください。自費で」言うことになるのでしょうか。う〜む。やりづらい。しかもこれは「処方箋」ではありません。となると「アドバイス料」みたいなことになるのでしょうか。そのあたりの運用をどうするのか期になります。
  2. 次に損得で考えてみましょう。この政策が通ると 患者さん: 負担増 → 損/薬局(ドラッグストア): 売上増 → 得/国(行政): 医療費削減 → 得 となるのですが、もうひとつ大事な団体があります。それがわれわれ医療機関(クリニックなど)。この政策ですとほぼ間違いなく損、となります。でも、損だからイヤ、と言ってるわけではないのです。
  3. 加えて、医師が「金儲けをしたい」と思っているのではないか、とわれわれの矜持を疑われている雰囲気が気になります。院長は開業医としてまだ 3 年目の新米ですが、これまでに「この薬を処方することで儲かるな、ヒヒヒ」みたいなことを思ったことは神かけて一度もありません。これは勤務医時代も同じ。臨床医のほとんどは「検査も薬も最小限にする」ことを心がけるよう卒然・卒後教育で指導されてきています。「OTC やその類似薬を希望するような "軽い" 患者さんがたくさん来ないかな」とか思う医師がいるとはとても思えません。それよりもわれわれは「症状で苦しんでいるひと、診断がつかず困っているひと」を診たいと、と思っていることは前提として踏まえておいてほしいと思います(直美(ちょくび)のひととかは存じませんが)。
  4. 最後にやはりこれを言わねばならないのが患者さんのリスクです。例えば、湿布を出すだけでも、NSAIDs と呼ばれる腎機能を低下するおそれがある薬を処方するとき、当院では少なくとも年に 1-2 回はかかりつけ患者さんであれば採血で腎機能をチェックします。また、外来で院長オススメのストレッチや運動法などもあわせて指導します(本当にウチではやっています。院長から「ヒジで大きく 1 から 10 までの数字を描く運動」とか「坐骨神経痛改善のための梨状筋ストレッチ」などを教わった患者さんはたくさんいるはず)。こういった、患者さんと「なるべく薬を減らして健康度を上昇する」という共通の目標を持ち、改善していく過程で一緒に喜びを分かち合うこと。こういった医療のカタチもなくなってしまう懸念も想像してしまいます。
  5. 4. で述べたような生活・運動指導が薬局で全員にできるか、となるとかなり「?」です。偉そうな言い方になりますが、もし医師の診察を受けずに薬剤師の先生方が出した薬で健康被害に遭った場合、患者さんは薬局ではなく病院やクリニックに来られるます。そうった患者さんの対応を(ときに夜中であっても)医師はしないといけない以上、薬剤師から医師にむけて「薬については自分たちにここまではしっかりとやるから任せて!」みたいなメッセージというか、コラボレーションがないと「薬剤師 vs. 医師」構図ができあがってしまうのではないかと心配です。

まあいろいろと書き連ねましたが、誠実な医療を実践したいと日々努めている多くの臨床医にとって納得できるカタチでの提案・検討を院長は切に願います。なし崩しに始まって医療現場が大混乱、となると迷惑を被るのは患者さんです。そして、医療を受けないで一生を終えるひとがほとんどいない以上、すべての国民は思いがけない怪我や病気によって患者になるのです。経済的なことだけではなく、是非そのあたりの想像力を働かせたうえでの議論が必要でしょう。もちろん財源とか考えながら。

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