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泌尿器科医とか救急医の当直がなぜかコワがる時刻ー "午前 4 時 32 分"・・・。

[2025.07.31]

午前 4 時 32 分。皆さんは何をされているでしょうか。おそらく多くの方が「寝ている時間」かと思います。これ、われわれ泌尿器科医にとってはちょっと "コワい" 時刻で、こんな論文があります。

「尿管結石症の痛みが発症する時刻は 午前 4 時 32 分が最も多い(発症時刻を平均化したときの数字)」というもの。これは睡眠中の脱水やホルモン変動、体位の変化などが関係していると考えられています。すなわち午前 4 時くらいに痛みを感じ始めて 5 時になるくらいまでに痛みがピークに達し、苦しんでいる男性(女性よりも 3 倍くらい男性に多い)が 5 時過ぎの救急外来に腰をおさえながら駆け込んでくる」みたいなことが多い、ということです。

尿管結石による疝痛は「痛みの王様」とも称され、大変ツラいもの。ただ、この尿管結石、われわれ医師にとっても「イタい」疾患といえます。

理由その1:夜中によく起こされるー医療従事者でない方は「当直している医師は夜だけ働いてその前後の日中は休んでいる」と思っている方が多いと思いますが、たいていの施設で当直は「通常の日勤業務を行った医師がそのまま当直になだれ込む」という、労働基準法的にどうなの?というスタイルを取っているところがほとんどです。そのため午前 4-5 時というのは本当にもう疲労のピークになる時間帯。特に当直帯の医師は救急外来のみ診療するのではなく、病棟の入院患者さんも同時に対応しなけれならないという施設が多く、病棟午前 0:30、2:30、3:15 とか細切れに呼ばれて、4-5 時には当直医が抜け殻のようになっている、なんてことはあるあるです。そんなときに「痛い!なんとかしてください!」という尿管結石の患者さんが来院されると(本来プロとしてあってはいけないのですが)少し塩対応になってしまったり、尿管結石と症状が似ている疾患を見逃してしまう、なんてこともありえるのです。

理由その2:ときどき詐病(いわゆる仮病の医療用語)のひとが紛れ込むー「尿管結石は "痛みの王様"」 と呼ばれることがあるほど強い痛みを呈します。そのため、比較的強い痛み止めとして、ペンタゾシン(商品名はペンタジン・ソセゴン)など、「麻薬の一歩手前」みたいな薬を使うこともしばしばなのですが、これが "気に入ってしまう" 患者さんがほんの少しいらっしゃいます。いわゆる「ペンタゾシン中毒」の方です。こういった方については、しっかりと精神科などで治療しなければならないので、患者さんが「自分はその痛み止めでは効かないのでペンタゾシンうってください」とか言われても安易に投与できません。ところがこういった患者さんは本当に痛みがある方と区別ができないほど「演技がうまい」方もいます。これまで院長も後日「詐病でした」とわかったケースを何例か経験し(たいてい精神科の先生から連絡がくる)、現在は尿管結石診療の落とし穴として常にアタマの片隅においています。

理由その3:"尿管結石もどき" が少なくないー昨日のブログで「泌尿器科疾患として救急に来られる患者さんの正診率(診察時の診断名が妥当であった確率)は 72.3%、尿路結石の正診率は 91.2%」と書きました。・・・となると 100-91.2=8.8% のひとは「尿管結石ではないのに "結石" と診断されている」ということです。このなかにはたとえばこんなケースがあります

・救急外来に来る前に酔っ払ってケンカ ⇒ 側腹部(腎臓があるところ)をパンチされて腎被膜下出血(要するに内蔵打撲)痛で来院して尿管結石とされてしまう

・小児と若年者で急に「左の下腹部が痛い」と言って来院 ⇒ 精索捻転(という、精巣を栄養する血管がねじれて精巣が虚血になる疾患があります)で緊急手術

・左下腹部が痛い!と言って来院した患者さん、尿潜血陽性(尿に血液が混ざっている)⇒ 腹部大動脈瘤の破裂(!!)とわかって猛スピードで血管外科の先生に連絡

など。特に最後の疾患は命に関わるので当院で尿管結石を疑う場合は必ず大動脈もチェックし、すこしでもあやしかったら病院の先生に CT やその後の診療をお願いしたりしています。

とにかくヒトの体や病気は本当にさまざまなことがありえます。われわれ開業医が病院の先生方と最も異なるところは「まず最初に診る」役割を社会から期待されているということ。可能な限り先入観を排除し、正確な診断に近づくよう努めています。・・・ただし上記のように、どうしても時間の経過や CT を撮るタイミングなどで診断が遅れることがありうる、ということは是非知っておいてください。そういった「ちょっとあやしいぞ・・・」という患者さんがいる場合、当院では可能な限り院長から具体的な指示(「体温が 〇〇 度を超えたらまた連絡ください」とか)を伝えるようにしますので。

明日は夏がハイシーズンの尿路結石について、その予防法などを書いてみます。

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